第三章

14/21
前へ
/81ページ
次へ
広江が亡くなって、1ヶ月が経った。 風香は、愛子が声を取り戻した事を泣いて喜び、沢山お喋りをするようになっていた。 海に行ってからの風香と愛子の間の歪みは無くなったと愛子は思っていた。 この日、学校が祝日で休みだった。愛子と風香は、一輝の家のリビングで一緒に勉強していた。 「しかし、愛子の透明感のあるちょっと高めの声はいい声だなぁ〜って思うよ〜。しかも美人でこの声!羨ましすぎるー!」 「そんな大袈裟だよ。」 風香は、「本当、羨ましい」と、囁く。 「何か言った?」 「ううん、何でもない。私ちょっとトイレ行ってくる!」 風香がリビングを出ると、一輝が2階から降りてきた。 「勉強はかどってる?」 「うん、なんとか。私、勉強は本当にダメだから、高校卒業認定試験受かるかどうか不安だよ。」 「大丈夫だよ!愛子ならできる。」 一輝は、愛子に近づき、抱きしめる。 「大丈夫だよ。絶対受かる。」 愛子は、うんと頷き一輝を抱きしめ返した。 一輝は、愛子に告白してから、愛子と2人きりの時、更に距離を縮めている。それは無意識からの行動で、愛子に触れたくなってしまう。 愛子からは特に告白の返事を貰ったわけではない。 だけど、一輝が愛子に触れても嫌がる様子はない。抱きしめても、ずっとそのままで、愛子は顔を真っ赤にして一輝の胸に顔を埋ませる。一輝は期待してしまう。 日に日に愛子への思いが募る。 一輝は、愛子の身体を少し離し、思わず愛子の唇に軽くキスした。 「頑張って」と、愛子の耳元で囁いて2階に上がって行った。 愛子は、呆然としながら、指を唇に当てた。 愛子も日に日に一輝への気持ちが、募る。だが、風香の事を思ってしまう。 ずっと、風香は幼稚園から一輝の事が好きだった。 愛子自身が一輝を好きだと自覚してから、風香を応援出来ないと思った。 だけど、一輝に返事がなかなか出来ないままなのだ。 一輝に触れられたり、抱きしめられると、好きだと言いたい。 おまけに、キスまでされた。 愛子はどうしたらいいか分からず、ただ呆然とするしか無かった。 その様子を、風香はドアの向こうで見ていた。 風香は、自分の黒く渦巻く嫉妬心をねじ込み、愛子と普通に仲良くしていた。 愛子が声が出るようになった事だけは、純粋に嬉しかった。だけどーーー。 もう限界だった。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加