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風香は、気分転換に、愛子を外に連れ出した。
10分ほど歩くと、唯斗の実家の畑が見えてきた。
風香は、立ち止まって後ろを振り向かずに冷静を装いながら聞いた。
「ねぇ〜愛子。広江さんが亡くなる前日、一輝と一緒に広江さんを家まで送ったじゃない?」
「うん」
「その時さ、何があったの?」
愛子は、家族の事や広江さんが曾お祖母さんだという事は話していなかった。
声がでたのも、突然だったと風香達には言っていた。
「何もないよ?」
風香は、勢いよく振り向き、愛子に掴みかかる。
「何でもない訳ないじゃない!愛子の声が出た次の日、広江さん死んじゃったし、一輝だって、愛子しか見なくなった!私見たの!広江さんの葬式の後、一輝と愛子が抱きしめ合ってる所。それに、さっきのあれは何?なんでキスしてたの??私が一輝の事好きなの知ってるでしょ?応援するって言ったじゃない!なのに、なんで?なんでよ!」
風香は黒く渦巻く嫉妬心で頭が一杯になって、止まらなくなっていた。
「愛子が一輝の家に来なければ良かったに!愛子なんて大っ嫌い!!どっか行って!消えて!!」
愛子は、「ごめんなさい」と小さく呟いて、その場を離れた。
愛子は、涙を、流しながら走った。どれくらい走ったろうか。
愛子は気が付くと、広江の家まで来ていた。
愛子は、広江の庭に入り、広江が育てた花をうずくまって見た。涙で、ぼんやりにしか見えなかったが、広江が大丈夫だと慰めてくれているように思えた。
愛子は、どれだけ風香の心を踏みにじっていたのか分かっていなかった。
愛子があの家に行かなければ、一輝、颯、風香、唯斗の4人は何も変わらなかったはずだ。
一輝も、もしかしたら風香を好きになって、付き合っていたかもしれない。
愛子は彼らの優しさに甘えすぎていたのかもしれないと思う。
愛子は広江の言葉を思い出す。
″流れ行く時代をあなたの故郷で沢山過ごして下さい。″
そうか、ここは愛子の居るべき場所ではない、故郷こそが愛子の居るべき場所なんだと思ったのだ。
故郷に帰ろう。そして、流れ行く時代を広江のように故郷で過ごしてみたいと思う愛子だった。
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