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次の日、颯は、休み時間一輝の席の前に一輝の方を向いて座っていた。
「ねぇ〜一輝〜、今日は一緒に帰って、それから家に行ってもいいでしょ?」
一輝は、目線を教科書から離さず、颯に言った。
「ダメ。お前、放課後教生の特別授業あるんだろう?
それに俺受験勉強本格的にしてるんだから。」
「え〜でもさ、昔から俺がお前ん家行って、一輝が勉強しててもそんな嫌がらなかったじゃん!」
一輝は、ハーっとため息をつき、颯を真剣な顔で見た。
「俺さ、今まで何となく診療所継ごうと思ってた。でも、愛子に会って、考え方が変わったと言うか、このままじゃダメだなって思ったんだ。
愛子は今必死に自分と向き合って、自分の家族、広江さんの思いを受け止めて必死に生きようとしてるんだ。広江さんがね、愛子に言ったんだ。″流れゆく時代をあなたの故郷で沢山過ごして下さい。そして長生きしてください。″って。
俺の故郷は、この街で、この街や人が大好きだ。だからこの街の人が、1人でも多く、″長く流れゆく時代″を過ごせる手伝いがしたい。この街の人が病気や怪我をしたら治療して治してあげたい。辛いことがあるなら一緒に寄り添いたい、そんな医者になって、父さんの診療所を継ぎたいんだ。」
颯は、驚いたように目を見開いていた。
「それに俺は愛子が好きだから、次会う時に恥ずかしくない生き方をしておこうと思った。それで、もう一度、好きだと言いたい。」
一輝は、優しく笑う。
「だから、暫く家には来ないでくれ。今は勉強に集中したいんだ。ごめんな?」
颯は、俯き、一輝から颯の表情は分からない。だが、泣いているように見える。
「愛子、愛子って。親友でずっと一緒にいた僕より愛子を取るんだ?」
「颯?何言ってんだ?愛子だけの為じゃないって言ってるだろ?」
「僕がどんな気持ちでいるか知りもしないで、、、一輝なんかもう知らない。勝手にしろよ。」
颯は、俯いたまま立ち上がり、教室を出ていった。
「颯!授業始まるぞ!!」
一輝の声は颯には届いていなかった。
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