第一章

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颯が、愛子を抱き抱えた後、3人は駐車場に向かう。 その道すがら、中里は一輝と颯に話す。 「お前達が井川さんを見つけてくれて、本当に良かったよ。」 一輝はうん、と頷く。 「たまたま、職員室に用事があって廊下を歩いてたんだ。すれ違った井川さんと、井川由香さん、後男子二人は体育館に向かってるようだった。放課後で、今日はどの部活も休みのはずなのに?とおかしいなとおもいながらも、職員室に向かったんだ。」 中里は隣に並ぶ一輝の顔を見る。その時、表情が曇る。 「それで、職員室から出たら颯が待ってて、俺は颯にその事を話したんだ。そしたら、颯が俺と同じように、妙だなと感じたみたいで、一緒に体育館に行ったんだ。すると男子が井川さん、あ、由香の方ね。男子達が彼女を引きずって体育倉庫から出て来たんだ。不味いよとか言いながら、その場から逃げるような感じで。奴ら、俺らを見て、驚いてた。なんで、ここに?と。」 ハッと一輝と颯は顔を見合わせ、体育倉庫に走った。 入った瞬間ーーーー 愛子が仰向けにぐったりと、倒れていた。 一輝と颯は、慌てて、愛子に近づく。すると、首には、赤く痣が出来てるし、顔や腕、足にも何箇所も痣があった。 「井川さん!井川さん!」 一輝は愛子を呼んだ。すると、一瞬目を開けたが、すぐに目を閉じた。 まずい。一輝は愛子を抱き上げようとしたのを、颯が制して、颯が代わりに抱き上げた。 先程と同じく、颯の方が力が強いからと。 颯と颯の双子の妹風香とは生まれてからずっと幼なじみで、いつも一緒にいた。 小さい頃から、特に颯は気の弱い一輝を守ろうとしてくれていた。一輝にとっては過保護のように思っていた。そんなにか弱いのだろうかと。 颯が、蒼兄ぃの所に運ぼうといい、体育倉庫を出た。 誰もいなかった。 あいつら、逃げたな。 一輝は怒りの感情が湧いて出てきたが、まずは愛子を保健室に連れていくのが優先だと気持ちを切り替える。 「俺、おかしいなと思ってたのに、なんですぐにアイツらを追いかけなかったのかって。すごく後悔してる。そしたら、彼女をーーー。」 先を歩く颯が立ち止まる。 「一輝がどうこう言っても仕方ないじゃん。もう起こってしまった事だし。今は井川さんを早く悟先生のとこに連れていくことが先決!」 中里は、その通りと一輝の背中をポンと叩く。 「颯の言うとりだ。とにかく、先生の所に彼女をつれていこう。」 一輝はただ力なく、はいと言った。 中里の車に着くと、後部座席に一輝が愛子を膝枕して身体を支えながら座る事になった。 診療所までの道中、約20分。 一輝は、愛子の手を握りしめていた。 愛子の手は氷のように冷たくなっているので、温めてやりたかった。 それに、普段も肌が白いが、今は更に白くなり、顔色は真っ青だ。 中里が、よく愛子に声をかけているのは見かけていた。 それは、一輝と颯が中里と話している時もそうだった。中里達を横切ろうとした愛子に気づいた時でも、必ず声をかけた。 一輝は、中里に聞いた事がある。何故そんなに、気をかけるのかと。 中里は苦笑して、ちょっとな!と言って、一輝の頭をくしゃくしゃとする。 だから、違うクラスでは話した事の無い、愛子が気になり始めたのだ。 彼女は、まるでそこに存在していないかのように、たち振舞っていた。 肌は色白く、目はいつもうつろな感じだった。 肌白いから、愛子のストレートロングの黒髪はよく栄えて見える。 それに、目鼻立ちが整っていて、とても美人だと思った。 彼女は存在を消そうとしている様だったが、一輝からしたら、とても存在感はある。 それはきっと、彼女を気にかけているからであって、他人は違っているのだろうけど。 そんな事を思いながら、彼女を見つめていた。 その様子をルームミラーから覗き込む颯。颯は、複雑そうに、彼らを見ていた。
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