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診療所に着くと、一輝の母が早速診察室にと通してくれた。
一輝の母は、この診療所の、看護師だ。
颯は診察台に愛子を寝かせる。
颯と一輝は待合室で待つように、一輝の母に言われ二人は診察室から出ていった。
愛子に近づき、診察を始める一輝の父。
一輝の父は髪はリーゼントにしており、尚目つきも悪く、眼光が鋭いので一見ヤクザかと勘違いされてしまう。
だが、実際は人情味のある人柄で、患者一人一人の話をよく聞き、医師としても優秀な人間である。
その姿勢は、家族にも同じなので、一輝は父をとても尊敬している。颯達も同じである。
そんな荻野は愛子を診察し始めると、眉間に皺を寄せる。
これは酷い。一輝の母や蒼太も息を呑む。
全身打撲、恐らく右の肋は3本折れている。
その打撲痕は新しいのから古いのもある。
首には絞められた痕がくっきりとついていた。
それに、顔色は真っ青で、ガリガリに痩せている。
栄養状態も悪そうだ。
「蒼太、この子の両親には連絡したか?」
荻野は愛子を診察しながら問う。
「井川さんは、4年前に起きた震災で亡くされています。津波に流されたと。今は、親戚の方に預けられています。その方に連絡を取り、この診療所に来る様に伝えてます。」
「そうか。そんな苦労をしていたのだな。で、この子に暴行していたのは?」
蒼太は少し顔を歪ませた。
「一輝と、颯が言うには、その親戚の子供と仲間の男子2名だそうです。」
何!?
荻野は愛子から目を離し、蒼太に顔を向ける。
「彼女の事は入学当初から気にかけていたんです。ご両親が亡くなって、そのショックから失声症になったそうです。それに年々顔色は悪くなり、痩せていきましたしね。目も虚ろな感じで心配していました。どうにか力になりたいと思っていたんですが。まさかこんな事にーーー。」
蒼太は悔しそうに顔を背ける。
荻野は、恐らくずっと従姉妹とその仲間にこういう仕打ちを受け続けていたのだろうと思った。
それに古い打撲痕は、服から見えない所にあるので、蒼太には気づけなかっただろう。無理もない。蒼太はよく生徒達を見ている。彼女の担任などに助言などしていたはずだ。だが、所詮養護教諭が一人訴えた所で、学校側がどうこうしない。
「蒼太、そう思い詰めるな。お前はお前なりにやっていたのだろうからな。今はこの子の手当とこれからの事だ。暫くは家で預かる方が良さそうだな。その事も踏まえて、その親戚と話をしよう。」
「そうですね。」
蒼太は溜息をつき、治療を一輝の父と母に任せ、診察室を出た。
待合室には、一輝、颯、颯の妹風香が座って待っていた。風香は、将来看護師になりたいと夢があるので、この診療所でバイトをしながら勉強をしている。
「蒼兄ぃ〜、井川さんはどう?」
風香が涙目で蒼太に聞いてきた。蒼太は少し笑って、風香の横に座り、頭を撫でてやる。
「大丈夫だ。全身打撲で肋は3本折れてはいるが、命に別状があるわけではないからね。それに先生が、暫く、この診療所というか一輝の家で預かろうと思ってるみたいだよ。」
風香は泣き出した。
「でも、彼女をこんな目に合わせるなんて許せないよ。」
蒼太をはじめ、皆押し黙る。
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