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ある日、一輝が颯に気持ち悪いと言い放った事を父親に知られた。
「お前、なんで颯にあんな事言ったんだ?親友だろ?」
一輝は、嫌悪感丸出しで、荻野に訴える。
「あいつ、男とキスしてたんだ。普通じゃないだろ??おかしいよ!!気持ち悪い!!」
荻野は、目を鋭くする。
「お前、もし自分の患者が同性愛者で、その2人が同じ様に"気持ち悪い"と、言い放つのか?同性を好きな事に悩んで、命を絶つ人もいるんだぞ?お前は、悩み苦しんでいる人に寄り添っていきたいんじゃないのか?同性愛者は別か?」
一輝は、押し黙る。
「医者だろうがなんだろうが、完璧な人間はいない。苦手だと思う事はあるだろう。だがな、よく颯の事を思い出して、考えてみろ。あんなに優しくて良い奴じゃないか。なのに、同性愛者だからとお前はあいつを切り捨てるのか?」
一輝は、肩を震わせて涙を流す。
「だって!アイツが、、、びっくりしたんだ、、、颯の事嫌いじゃないよ。親友として最高な奴だ。だけど、俺はどう受け止めたらいいか、分からない!!」
「一輝、そのままの颯を受け入れてやればいいんだ。ただ、同性が好きな颯をな。それに、お前が言い放った言葉と態度は人間として最低な事をした。颯は、色々一人で抱え込んで、笑ってないとやってられなかったんだ。それがやっと、心から愛せる人と出会って、幸せに生きようとしていたんだ。」
「分かってる。酷いこと言ったって。だけど、頭で分かってでも、気持ちがついてこない。最低かもしれないけど。」
一輝は、テーブルに突っ伏して、更に号泣する。
はぁ〜と、荻野は深くため息をつく。
数週間程経ち、一輝は気持ちを整理させる。同性愛に抵抗はまだある。でも、颯は親友だし嫌いにはなれない。
それに、驚いて思わず、颯に酷い事を浴びせてしまった事を深く反省している。
ずっと、颯の事を考えていると、ふと、気づいた事があった。
颯が、愛子が故郷に帰ってから、異常に一輝から離れなかった。それ以前も、ずっと傍にいようとしていた。一輝が、愛子が好きだから、恥じない生き方をする為に、医大の受験勉強に専念させて欲しいと言った時の颯の言葉や態度。一番印象的だったのが、廊下で初めて一輝を怒った時。あからさまに、一輝を避けるので、昼ごはん位は一緒に食べようと、つい、しつこく誘った事があった。
"なんで、僕が一輝から離れようとすると僕を見るの?僕がどんな気持ちで"
今思えば、その時の颯の表情はまるで恋する乙女のようだった。それに、苦しく堪らないという表情をしていた。
"颯は、ずっと俺だけを見ていた?もしかして、颯は俺が好きだった?それを、隠すために、必死に何を考えているか分からない笑顔を作っていた?俺に嫌われないように?一人で、ずっと悩んで苦しんでいた?"
"俺は、知らず知らず、颯の気持ちを踏みにじっていたのか?それだけじゃない。父さんが言ったように、やっと心から愛せる人と幸せに生きようとしていたのに、俺は颯を更に傷つけた。"
一輝は、颯の事を思うと涙が溢れた。
"なんて事を言ったしまったんだろう"
病室で、颯が恋人とキスをしていた時、幸せそうに、「愛してる」と恋人と言い合っていた。
一輝が今まで見た事のない幸せそうな颯がそこにいた。
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