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「あの、井川愛子の家のものですが。」
診療所に入って来たのは、一輝達と同い年くらいの男女と、井川由香だった。
風香は、涙目を拭う。
「少々お待ちください。先生を呼んできます。」
風香は、一輝の父を呼びに行った。
直ぐに一輝の父は待合室に出てきた。
見た目がヤクザみたいな一輝の父だから、相手は一瞬怯む。
「井川さんですね、愛子さんの状態などお話したい事がありますからこちらにお入り下さい。」
一輝の父は、診察室に由香達を入れる。
診察室に入り、愛子の姿を見て絶句する由香の両親。由香は愛子を見るやいなや、「愛ちゃん!」と叫びながら、診察台に近寄ろうとした。
蒼太は咄嗟に由香を止める。
「離して!愛ちゃんがこんな目に合うなんて!」と涙目で蒼太に訴えたる。
だが蒼太は、冷徹な鋭い目を由香に向ける。その視線に由香は恐怖を覚える。この人は、由香の学校の養護教諭だと思い出す。だが、彼はー。
こんな、冷徹な目をするような人ではないと由香は認識していた。いつも、温厚で優しい人間のはず。なのに、なぜ由香にそんな冷ややかな目を向けるのか分からなかった。
「君は愛子さんに二度と近づかない様に。」
由香はその場に棒立ちするしかなかった。
「愛子さんは、人に全身殴られ、首を絞められた後があります。骨折は肋3本で済んでますが、酷い状態ですね。」
「誰が愛子に、、、」
由香の母が呟く。
「待合室にいたのは私の息子と友人なんですがね。彼らが体育倉庫で愛子さんを発見したそうです。」
荻野は由香を鋭く見つめる。
「それと、由香さんも。愛子さんが倒れていた体育倉庫から由香さんと男子生徒2人も慌てて出てきたそうです。男子生徒達は、由香さんに不味いよとかなんとかいいながら、逃げていたそうですよ?」
由香は、顔が青ざめていく。
由香の両親は、まさかと信じられないようだった。
「そんな、うちの子が暴力だなんて。」
有り得ないと。母が由香を抱きしめる。こんないい子が絶対有り得ないと。
由香も白々しく、嘘だと訴えてきた。
蒼太はそんな由香達に嫌悪感を抱く。
荻野は、冷静に話をする。
「そうですか、では、暴行事件にあった女子高生を診察したと、警察に報告しましょう。私にはその義務がありますからな。」
「そ、そんな大袈裟な。」
由香の母が狼狽える。
「この子の状態を見て大袈裟だと思うか?」
「愛ちゃんは、きっと転んだけ!母さん達にもっと気を引きたいのよ。この子はそういう子なの!」
由香は、両親に訴える。母は、愛子より娘の言葉を信じようとする。誰かに殴られたなんて、それが娘の仕業なんて思いたくもないし、信じたくない。
愛子の両親が亡くなって、彼女はショックのあまり声を失っていた。
最初は不憫に思い、面倒を見てやった。
だが、愛子は元気を取り戻すことはおろか、段々殻に閉じこもっていった。
最近では食も細くなっていた。
愛子は由香が言うように、由香の両親の気を引きたいだけだったのかもしれない。
きっとそうだ。今までの愛子を見ていたらそうとしか思えて仕方なかった。あんなに、面倒みてやったのに。
声も本当はーーーー。
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