14人が本棚に入れています
本棚に追加
/81ページ
津波によってけたたましく流され、水面下に沈んでいく街。高台から見下ろす愛子はただ言葉を失う。
愛子が住む街は、太平洋沿岸にあり、三陸海岸の一部である。他の地域と同じくリアス式海岸が特徴で、この街は比較的標高が低く、なだらかな丘陵が多い。
愛子は今いるこの高台からその海と、街を見下ろすのがとても好きだった。
漁師町だから、都会のようにきらびやかではない。
そこが逆に魅力的なのだ。愛子のように、物静かに生きたいと思う人間には丁度いい街である。
そんな、大好きな海と街が境界を無くし、全てが海となす。
呆然とする中で、両親の事を思い出し、携帯を見る。
1件の留守電が入っていた。役場で働く母からだ。
「愛子、凄い高い津波がきてるけど無事?母さんは、今役場の屋上にいるよ。でも、、、」
プツンとそこで留守電は終わった。何度か折り返しの電話をしたが繋がらなかった。
父は今日も早朝から漁に出ていたはず。電話するが繋がらない。
携帯を持つ手が震え、涙が止まらなくなった。
「お父さん、お母さん、、、」
ただ、小さく呟いた声は津波の轟音でかき消されていった。
最初のコメントを投稿しよう!