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「美しい顔って言われても、僕には分かんないんだけどな」
「でもいつかはミルコも何が美しくて何が醜いかを知る! あたしは醜いの! それを知ったらミルコはあたしの前からいなくなってしまう!」
ミルコはアニーを力強く抱きしめた。
「え? ミルコ?」
「いなくなんないよぉ…… これまでずっと一緒にいて、優しくしてくれたアニーのことが大好きなんだよ? これからもアニーと一緒にいたいんだ。だったら僕たち以外誰もいない世界の果てに行ってずっと二人で暮らそ? それとも、アニーは僕のことキライになっちゃったの?」
「好きよ」
「だったら!」
「でも、あたし醜女だし。顔、見られたくないの」
すると、ミルコはアニーを突き放した。やっと諦めてくれたかとアニーは安堵した。
ミルコは折れたカタナの切っ先をポケットから出して、じっと眺めた。
「アニーは僕に顔を見られるのがイヤなんだね? だったら僕がアニーの顔を見られなくなればいいんだ! そうしたらこれまでと同じように一緒にいてくれる?」
「え?」
「これまで、ずっと僕の身を守ってくれたカタナ…… 最後の戦いで砕けて折れちゃった。欠片だけでもと思って拾ってきたんだ。ちょっと触っただけで指先が切れちゃった。これならきっと目なんて簡単に……」
ミルコはカタナの切っ先を自らの目に向け、そして、横一文字に目を切り裂こうと構えた。
「ちょこっとだけでも目が見えてよかった。また、暗い闇に戻るだけ。いつもそうだった」
それを指と指の間からアニーは見てしまった。何をしているんだ! アニーは慌ててミルコの前へと走りカタナの切っ先を握りしめた。
アニーの右手の掌から血が流れる。苦痛に歪めた顔をミルコの前に晒してしまった。
「やっと、顔を見ることが出来た。これがアニーの顔なんだね!」と、ミルコが満面の笑みを浮かべながら述べた。ずっと一緒にいてくれた想い人の顔を見ることが出来た嬉しさからくる最高の笑顔であった。
アニーはそんなことはお構いなしにミルコを怒鳴りつけた。その前にアニーは血に染まったカタナの切っ先をぽいと森の奥深くに投げ捨てた。
「いい加減にしてよ! せっかく目が見えるようになったのに! それを台無しにしようとするなんて!」
「前に言ったじゃん? アニーの顔が見たいって」
「それなら、ご両親のことは!」
「一回、見えるようになったんだし。これでおしまい。ここから先は見えるも見えないも僕の自由。アニーが僕に顔見られたくないって言うなら、見えなくなって一緒にいてくれるようにするだけのこと。両親はもう関係ない」
「わがまま言わないでよ……」
「わがままなのはどっちだよ! 僕がアニーと一緒にいたいだけなんだよ! 顔なんてどうでもいいよ!」
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