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「終わりだ」
ミルコは賢者の杖を癒やしの女神の心臓に向かって突き立てた。自分の恨みと家族の無念を込めて念入りに念入りに抉り回しに回す。賢者の杖にミルコの掌の傷から血が伝って落ちていく。アニーの汗とミルコの血が混じり合う…… 賢者の杖は元々は神々の持ち物、人の理から外れた聖具、何が起ころうと不思議ではない。二人の汗と血が染み付いた賢者の杖は錆びて折れ砕けて行く。
ミルコはそれでも構わずに賢者の杖の欠片で女神の心臓を抉り続けた。
湖に浮いていた癒やしの女神の生首は断末魔の叫びを上げた後、また元の美しい顔となった。目を閉じた寝顔にも似た癒やしの女神の死顔は森に吹く風が起こした波に乗り畔に打ち上げられた。
癒やしの女神が醜女のアニーに慈悲から与えた、賢者の杖で癒やしの魔法の根源たる女神の心臓を破壊されるとは夢にも思わない。それは皮肉としか言いようがない。癒やしの女神の断末魔の叫びはこれを嘆いてのものであった。
その瞬間、ミルコの目に激痛が走った。ミルコは激痛に耐えながら湖へと走り水面に顔を浸けたり、目に水を当てて冷やしにかかる。
「そうか…… 目が見えるようになるんだ……」
アニーは目に襲いかかる激痛でのたうち回るミルコを目の前にして踵を返した。一人で森を出るためである。
ミルコと別れるのは辛い。でも、顔を見られて「醜女」がどういうことかを知った後に捨てられて悲しい思いをするぐらいならここで別れた方がまだ幸せだ。
ミルコ、美人の女の人と一緒になって幸せに生きるんだよ。
アニーはそう願いながら、一人で森の出口へと向かうのであった。
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