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「待ってアニー!」
アニーの後ろより少年の叫ぶ声が聞こえた。アニーは足を止めた。そこにいたのはミルコだった。必死に走ってきたのか、体中汗と泥に塗れ、枝での擦り傷も夥しいものだった。
「ねぇ! アニーだよね?」
どうして追いかけてきたんだ! アニーは焦った。ミルコは走りアニーの正面に回ろうとした。
「どうしたのアニー? どうして顔を背けるの?」
今まで一緒に旅をしてきた女がこんな醜女だと言うことを知られたくない。アニーは必死に顔を背けた。
「アニー! 目が見えるようになったんだよ! ねぇ! 見てよ!」
今考えたら、ミルコはあたしの顔を知らない。そう、あたしは森を歩いていた名もなき修道女、誤魔化そう。神様ごめんなさい、あたしは嘘を吐きます。アニーは生まれて始めての嘘を吐くことにした。
「いいえ、あたしはアニーなどではありません。人違いをなさっているのでは? そう言えば、あたしの前を同業者が走り去って行きましたが、きっとその方がアニーさんなのでしょう。まだ走れば追いつけるかもしれませんよ?」
すると、ミルコは目に涙を浮かべてアニーに訴えかけた。
「ねぇ? アニー? どうしてこんなつまんない嘘吐くの? 僕、声で分かるんだよ! ずっと一緒にいたアニーの声を間違えるわけないじゃないか!」
ミルコは素早くアニーの前へと回り込んだ。アニーは素早く両手で顔を隠した。
「ミルコみたいな、いい顔した子はいい顔した女の人と一緒にいるべき」
「いい顔って、湖に浮いてた首の顔?」
「そうよ、あの方は癒やしの女神様。整ったいい顔でしょ? 町に行けば、あのような美しい女性がいくらでもいます」
これを癒やしの女神が聞こうものならそれこそ神罰モノの台詞である。
アニーも口にした後でそれに気がついたのだが「死んでるしまぁいいか」と、気にしないことにした。
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