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ミルコはアニーの両頬を両手で包んだ。二人はしっかり目を合わせ、お互いの顔を見つめ合う形になった。アニーもミルコの両頬を包み返した。
人間、お互いに目が合うと何故か笑い合うもの。二人はお互いに笑顔を見せた。
ミルコにとって始めて見る人の笑顔だった。
「人は、嬉しいとこんな顔になるんだね」
「そう、好きな人といるとこんな顔になるの」
二人の顔であるが、手を切ったお互いの掌に包まれていたためにお互いの血が頬紅となり頬を紅く染めていた。
「痛っ! 手切ってたんだった」
「あたしもよ、手貸して」
アニーはミルコの掌に向かって癒やしの魔法を詠唱を始めた。
「癒やしの女神の力を目の前に顕現させよ! パナケアリィ!」
しかし、ミルコの掌の傷は塞がらない。そうか、さっき癒やしの女神様をあたし達の手で殺してしまっていた。もう癒やしの魔法は使えないのか……
アニーは凛とした顔でミルコに述べた。
「ミルコ、この通りあたしはもう癒やしの魔法は使えません。これでも、一緒にいてくれますか?」
ミルコは先程切ったばかりのアニーの掌を眺めた。切っ先を軽く握っただけの浅い傷故に、出血は緩やかなものとなっていた。
「傷なんて、ほっときゃ塞がるよ。人の体って傷が自然に治るようにできてるんだよね」
「そう、自己修復。癒やしの魔法はそれを早めるだけのこと。本来なら医学でゆっくりと自己修復を促しながら治すものなの」
「だったら、もう癒やしの魔法なんていらないね」
「ええ、そうね」
もう、あたしはヒーラーじゃない。アニーはそう思いながらヒーラーの証である頭巾をぽいと投げ捨てた。天然パーマでウェイブのかかった赤髪が風に揺れる。
ミルコは風に揺れるアニーの髪を優しく撫でた。
「あったかそうで、綺麗な髪だね」
忌み嫌われた赤髪をこのように褒めてくれたのは始めてだ。アニーの顔は赤髪と似たように赤面し始めた。
「人は、嬉しくて照れくさくなると顔が赤くなるんだね。それにあったかい」
「そうよ、嬉しいの」
さて、いつまでも木漏れ日しかない薄暗い森の中にいても仕方ない。
アニーはミルコの手を引いて先導し光あふれる森の外へと出ようとした。
手を引いたのはこれまでの旅で染み付いた習慣からくるものである。
しかし、ミルコは足を止めた。
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