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それから数ヶ月…… 狩人の息子のミルコはつかまり立ちをするぐらいに成長していた。ミルコはつかまり立ちをするものの、すぐにドテンと転んでしまう。子どもが歩けるようになるまでには個人差がある、きっとこの子は遅いだけだろうと狩人夫婦は楽観的に考えていた。だが、数ヶ月が経っても歩くには至らなった。立つことは出来るもののどこかフラフラとしており前後不覚の様相を見せているのだ。
原因が明らかになったのもその頃である。
その日、狩人とその妻は横並びになり、離れた場所にミルコを座らせた。
二人はお互いに息子の名を呼ぶのであった。
「ほら、パパだよ! ミルコ!」
「ママよ! ミルコ!」
ミルコは手探りをしながらハイハイをして、二人の方に向かった。
二人は「パパだよ」「ママだよ」と何回も叫ぶ。息子は「マァマァ……」と発しながら狩人の方へと向かうのであった。
「こらこら、俺はママじゃないぞ?」
狩人は息子の頭を優しく撫でながら優しく微笑んだ。すると、ミルコは狩人の胸で鼻をひくひくとひくつかせた。そして、怪訝な顔をしながらドンと狩人を突き飛ばしてしまった。
「ぐあああーっ!」
ミルコは何を言っているかわからない喃語を放った。言葉はなくとも「なんとなく」であるが「違う! ママじゃない!」と言っているように二人は感じ取った。狩人の妻は慌ててミルコを胸に抱いた。息子は狩人の妻の胸に抱かれると嬉しそうに「ママだ!」と言うかのように満面の笑みを見せた。
狩人の妻に「もしかして……」と、最悪の想像が頭の中に過る。
「この子、目が見えてないんじゃないかしら……」
狩人は軽く笑った。
「ははは、そんなわけが。始めに俺の方に近づいてきたから嫉妬でもしているのか?」と、狩人は何も心配してない体を見せるが、その瞬間に癒やしの女神のことを思い出し全身の血の毛が引き、身体全体が真冬の湖に飛び込んでしまったかのような寒気を覚えるのだった。
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