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後日、教会より医者(修道士)がやってきた。医者は事情を聞き、ミルコの目が見えるかどうかの診察を行うのであった。目の前で振り子を揺らしても眼球運動の一つもしない。眩しい太陽の元に出しても目を背けることなく眺め続ける。音と匂いには敏感に反応する。そのことから導かれた結論は……
「息子さんは目が見えません」
医者も非情な通告をすることに胸を痛めた。それ以上に胸を痛めたのは両親だった。狩人の妻は自分の腹が悪かったのかと胸を痛め、狩人は「自分の罰が息子に移ってしまった!」と、お互いに嘆き悲しみ涙を流すのであった。
医者は本業の修道士らしく二人を慰める。
「これは神が与えた試練なのです、神様は乗り越えられない試練はお与えにはなりません」
狩人は直様に癒やしの女神に会った湖へと向かって走った。その顔は怒りと涙に満ちたものであった。
「癒やしの女神様! お見えにならないのですか!?」
狩人の慟哭のエコーが延々と山に響く…… その声を聞いて外敵が来たと思った獣達が逃げていく。
それから狩人は毎日のように湖に通い詰めた。それはまるで、何日もかけて獲物を探すようであった。
その間、目の見えないミルコの世話は妻に任せきりである。そのせいで家庭不和が起こり、毎日が怒号の飛ばし合いとなっていた。母親の優しい子守唄で育っていたミルコの毎日が、両親の怒号を子守唄にして育つ毎日へと変わっていく……
ミルコが五歳になる頃…… 村人達もミルコの目が見えないことを知って優しくしていたのだが、農作業も出来ない、学校(修道院)にも通えないために文字の読み書きも出来なく聖職者にも商人にもなれない、城に取り立ててもらい兵士になることも出来ない。
悪く言えば、村にとっては何も出来ない穀潰しも同然。村人達はミルコを疎んじるようになってきた。
狩人の妻にも村人達より「山に捨ててしまいな」「都会の娼館に売るんだね」「あの子がいない方があんた達夫婦のためだよ」などと心無い言葉が投げかけられた。
彼女は村人達から投げかけられる言葉に耐えかねて日に日に心身共に衰弱していった。ミルコも村人達の心無い言葉のトーンから「良いことは言っていない」ことを察し、あいつらは悪い奴だと考えるようになっていた。
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