Prologue

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 狩人は今日も今日とて湖に癒やしの女神を探しに行く、毎日が梨の礫…… しかし、ついに癒やしの女神と再会することが出来た。実に五年ぶりのことである。 癒やしの女神が今から水浴びをしようと純白の衣服を脱ごうとした時、狩人は叫んだ。 「癒やしの女神様!」 癒やしの女神は慌てて服を脱ぐのをやめ、声のした方へと振り向いた。この前(五年前なぞ神々からしたら一瞬にも等しい)、裸を見られた狩人か。癒やしの女神は知らぬ間柄ではないとしてニッコリと微笑みを見せた。 正真正銘の女神の微笑みである。 「あら、この前の……」 「女神様! 私の罰をなぜに息子に!」 癒やしの女神はふぅと呆れたような溜息を()いた。その表情は人を小馬鹿にしたような見下しきったものだった。 「親の罪を子が償っているだけでしょ? それより、狩りはどうかしら? あなた、目が見えているから今まで通り狩人を続けられて幸せでしょう?」 狩人は確かに狩りを続けることは出来ていた。しかし、その代わりにミルコの目が見えなくなったことを後悔し続けている。 「あの子は! まだ子供なんです! 光あふれる希望に満ちた子供だったのです!」 「うるさいわねぇ。だったら見ず知らずの人が不幸になってもよかったっていうの? それはそれでエゴイストもいいところだわ」 「それは……」 「あなた達に出来るのは目が見えなくても逞しく生きていける(すべ)を教えてあげることぐらいね。辛いかも知れないけど頑張ってとしか言いようがないわ」 自分が息子の光を奪ったくせにこの物の言いよう。やはり神々には人間の道理は通用しない。教会で聞いた慈悲深い神々とは全然違う存在じゃないか。それも「癒やし」の概念そのものである癒やしの女神なのに「癒やし」も何もないじゃないか。心は「肥やし」にも劣るぐらいに汚い存在だ。狩人は腹を立てたが自分を押し殺し、怒りを飲み込み耐えるのであった。 「お願いします。私は罰を受けます。どうか息子だけは」 それを聞いた癒やしの女神はくくくと鳩が鳴くように笑った。 「駄目よ。神々は一度約束をすると絶対に変えることは出来ないの。この呪いは神との約束と同じなの。これはまだ我々神々がお前達人間を作る遙か前より守られている決まりなの」 「そんな! ならば息子は!」
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