第五章 塩の柱、そして光を掴め

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 長い冬が終わり、春を迎えた。二人は名もなき村を後にし、当てのない旅を続けていた。 二人を春の温かい薫風が頬を叩き、そして陽光が照らす。すると、ミルコが唐突に足を止めた。先導するアニーがゆっくりと振り向く。 「どうしたの?」 「塩の香りがする」 「潮の香り? こんな山奥で? 海とは真反対側に向かってるのよ」 アニーはミルコ程鼻が利かない。アニーは潮の香りなぞ一切感じないのであった。 「違う、海風の香りじゃない。料理に使う塩の香りの方」 アニーは一旦ミルコの手を放し、袋の中より地図を出した。太陽の角度と、方位磁針とを照らしわせて自分の位置を確認する。 「変ねぇ、この辺りには塩湖も岩塩鉱山もないわよ」 「それと、嫌なニオイがする。久しぶりの嫌なニオイ」 「え? 久しぶりって」 二人が街道を進み小高い丘陵を登り、頂点より坂の下を見ると、そこには小さな村があった。しかし、村があることは問題ない。問題は小高い丘陵の下り坂だった。街道脇の深緑の豊かな野原、そこには共同墓地の墓石を思わせるぐらいに白い塊が所狭しと並べられていた。 「これ、何かしら」 アニーが軽く白い塊に触れると、ボロボロと白い粉が地面に落ちる。手についたそれを軽く払うと同時にミルコが口を開いた。 「どうしたの? 草の香りに混じって塩の香りが凄くて鼻が曲がりそうんだけど」 これがミルコの感じていた塩の香りの正体か。これの香りが風に乗って流れてきたのか。アニーが納得した瞬間、先程まで登っていた街道の下り坂より人が登ってくる気配を感じた。 「おう、こんなド田舎の村まで旅人さんかい? ここは余所者は歓迎しない。さっさと回れ右して帰るんだな」 旅人には親切にせよ。この教えは名もなき村にしか生き残っていないのか…… アニーは少し悲しい気分になり元来た道を引き返し、道中にあった教会で宿を取ろうと考えた。 アニーがミルコの手を引いて一歩を踏み出した瞬間、男がミルコの顔を見て驚いた顔をした。 「テメェ! ミルコ! どうやって戻って来やがった!」 男の声を聞いた瞬間にミルコの表情が一気に曇り、瞬く間に何かを睨みつけるような修羅の形相へと変わる。ミルコはアニーの手を振り払い、カタナの柄に手をかけた。 「ミルコ?」 男は悪びれもせずに戯けた態度を取り始めた。 「お? お前もしかして村の奴らに仕返しに来たのか? もしそうなら逆恨みってもんだぜ? お前みたいな穀潰し、村の誰も世話なんてする筋合いねえからな」 「黙れ! あの後! 僕がどんな目に……!」 「ま、お前は売り飛ばされたんだからな。ロクな目には遭ってねえだろうな。けどな、俺らだって今罰を受けてるんだ」
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