駅近物件に住みたくて。

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「駅に激近で家賃が安くて、風呂・トイレ別!? お客さん、そんな物件、ありませんよ!」 やはりそうだろうな、という思いで、伏し目がちにため息をつく、瞳。 ここは、栃上不動産。 カウンタ越しに、従業員に希望を伝えてみたところ、 せっかく持ち出してきた間取り図のファイルを開く手を 止めてまでの、塩対応。 あきらめて帰ろうとする瞳に、 「そんなことありませんよ。当社には、ない物件はない、つまり、 『ありません』は『ありません』なんつって」 従業員の背後に、突如現れた男。 まるで演歌歌手のステージ衣装のような、紫色のスーツに身を包んで、 ポーズを決めている。 「しゃ、社長!」 慌ててイスから立ち上がり、直立する従業員。 と、それをそっと押しのけ、 「キミはいいから。私がご案内しましょう」 「社長」らしき人物をしげしげと眺める、瞳。 「こういう者です」 「お部屋探しに神対応 栃上不動産 取締役社長 栃上崇」と書かれた名刺を 差し出す社長。 「お客様の願いを叶えてさしあげましょう。 『駅近』というより、駅そのものですよ」 「駅!?」 瞳の瞳があからさまに輝き出す。 「お客様は…」 と、社長は、カウンタの上に置かれたままの、お客様登録シートに 記入された情報に目をやりつつ、 「八木瞳様。隣町にお住まいですから、エリア外の女性ということで、 ちょうどこの物件の条件に合うんですよ」 「エリアって、何のですか?」 「そりゃ、氏子エリアですよ。ちょっと、こちらへいらしてください」 社長は手招きすると、「STAFF ONLY」のプレートが貼られたドアに、 瞳を招き入れようとした。
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