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下駄箱を抜けるとフローリングの床が広がっていた。
真っ直ぐな廊下をぺたぺたと歩く。入ってすぐ左側にガラス張りの部屋があった。
受付のようなものがあり、その場所の高さは僕の目線くらいだ。
「ここは事務室。遅くまで出かける時や火を使いたい時はここに来てね。後、たくさん大人がいるから困ったらおいで」
無言で頷いた。大人は、怖い。大人は身勝手で、僕を嫌ってくる存在だ。
「じゃあちょっと事務室の奥にある相談コーナーって所でここのルールを説明しようか」
女性はそう言うと、事務室のドアを開ける。ヒンヤリと冷気が僕の肌を撫でた。
事務室では大人が忙しそうに動いている。
と、入口付近でコピーを取っていた男性がこちらを振り返った。
真っ直ぐな黒髪に人懐っこい笑顔をうかべた彼はこちらへ歩み寄ってきた。
背が、高い。──怖い。
「こんにちは。僕は二班の担当の吉田豊。ゆたくんって呼ばれてるよ」
二班? 黙っていると、女性は微笑んで言った。
「ここはね、生活班ってのがあって、一班から十班まであるの。各班に担当の人が着くんだ。祐輔くんは一班で担当は私・和泉優里。ゆりちゃんって呼ばれてるよ」
ゆたくんと、ゆりちゃん。
信頼は出来るだろうか。
殴らないだろうか。蹴らないだろうか。煙草を押し付けてこないだろうか。
「さ、相談コーナー行こうか」
ゆりちゃんについて行った先には狭い部屋があった。そこに入ると白いテーブルが置かれている。椅子が二脚向かい合って置かれていて、机上には卓上カレンダーとファイルが置かれていた。
「そこ座ってね」
椅子の上で体育座りをする。身体をギュッと小さくして。気配を、消して。存在がバレないように……
「祐輔くん。もう普通に座っても大丈夫だよ」
……嘘だ。大人は絶対に、僕を要らない存在として扱うものだ。腕に込める力を強くした。
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