1.陰

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「ねぇ、ゆりちゃん、新しい子?」  女の子のうち小さい方がゆりちゃんの服を引っ張った。 「そうだよ。彼は小田祐輔(おだゆうすけ)くん。今日からみんなと生活してきます。いろいろ教えてあげてね」 「任せとき! 俺、篠田基樹(しのだもとき)。モトって呼んでな。よろしく!」  声が、大きい。モトの身長は僕より大きくて肌は真っ黒だった。髪の毛はハリネズミのようにツンツンしている。  続けて小さい方の子が口を開く。彼女は随分小柄で、顔はどこかリスのようだった。 「あたし沢田秋菜(さわだあきな)。アキって呼んで。よろしく!」    にっこりと笑うとえくぼが両方に出来た。  少し背が高く、アキと顔が似ている子が続ける。 「私、雪菜(ゆきな)。アキは妹なの。ユキって呼んでね。よろしく」    二人は姉妹らしいがずいぶん話し方は違い、姉の方は穏やかで落ち着いていた。 「俺はユキちゃんって呼んでるよ」  モト、アキにユキちゃん。彼らは、僕を裏切らない?  『よろしく』と言う言葉には何かが隠されていそうだ。 「なぁ、祐輔。何年生?」  祐輔、と呼ばれた。身体が震える。細かく震える掌にグッと爪を立てた。  声は出してはいけない。 「祐輔くんはモトくんと同じ三年生だよ」  代わりに、ゆりちゃんが言ってくれた。   「まじ? やったぁ! ケイくんが“退園“してから男俺一人だったし。心強い!」 「ケイくん新しいお家見つかったもんね」  ケイくん。誰か分からない人で盛り上がる彼ら。僕は話に入れない。  もし話に横入りしたら背中を引っ掻かれちゃう。  僕は悪い子だから、背中は赤や黒で埋め尽くされている。 「あたし小一! お姉ちゃんは小五! なんで祐輔くん話さないの?」  話したら、存在がバレてしまう。  僕は悪い子だから存在を消さないといけない。  だから言葉は口の中。唇にはチャックをしないとダメなんだ。 「こら、アキ。祐輔くん困ってるよ」  ユキちゃんは静かに言うとポンッと手をアキの頭に置いた。  ちっとも困ってない。でも、ユキちゃんは怒っていないだろうか?
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