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「ねぇ、ゆりちゃん、新しい子?」
女の子のうち小さい方がゆりちゃんの服を引っ張った。
「そうだよ。彼は小田祐輔くん。今日からみんなと生活してきます。いろいろ教えてあげてね」
「任せとき! 俺、篠田基樹。モトって呼んでな。よろしく!」
声が、大きい。モトの身長は僕より大きくて肌は真っ黒だった。髪の毛はハリネズミのようにツンツンしている。
続けて小さい方の子が口を開く。彼女は随分小柄で、顔はどこかリスのようだった。
「あたし沢田秋菜。アキって呼んで。よろしく!」
にっこりと笑うとえくぼが両方に出来た。
少し背が高く、アキと顔が似ている子が続ける。
「私、雪菜。アキは妹なの。ユキって呼んでね。よろしく」
二人は姉妹らしいがずいぶん話し方は違い、姉の方は穏やかで落ち着いていた。
「俺はユキちゃんって呼んでるよ」
モト、アキにユキちゃん。彼らは、僕を裏切らない?
『よろしく』と言う言葉には何かが隠されていそうだ。
「なぁ、祐輔。何年生?」
祐輔、と呼ばれた。身体が震える。細かく震える掌にグッと爪を立てた。
声は出してはいけない。
「祐輔くんはモトくんと同じ三年生だよ」
代わりに、ゆりちゃんが言ってくれた。
「まじ? やったぁ! ケイくんが“退園“してから男俺一人だったし。心強い!」
「ケイくん新しいお家見つかったもんね」
ケイくん。誰か分からない人で盛り上がる彼ら。僕は話に入れない。
もし話に横入りしたら背中を引っ掻かれちゃう。
僕は悪い子だから、背中は赤や黒で埋め尽くされている。
「あたし小一! お姉ちゃんは小五! なんで祐輔くん話さないの?」
話したら、存在がバレてしまう。
僕は悪い子だから存在を消さないといけない。
だから言葉は口の中。唇にはチャックをしないとダメなんだ。
「こら、アキ。祐輔くん困ってるよ」
ユキちゃんは静かに言うとポンッと手をアキの頭に置いた。
ちっとも困ってない。でも、ユキちゃんは怒っていないだろうか?
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