3.初

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「へへっ、ありがとう」 「みんなお疲れ。そうそう、今日の夜ご飯はスペシャルディナーだよ」 「ほんと!? 何出るの!?」  スペシャルディナーという魅惑的な言葉にアキは小躍りする。  僕も内心ウキウキしていた。 「えっとね、ビーフシチュー、シーザーサラダ、ビシソワーズ、パンだね。それと、プリン」 「えっ、めっちゃ豪華!」  わーい、わーいと歓声をあげながら、アキはスキップをしだした。  が、僕にはよく分からない。  知らない言葉が二つ出てきたのだ。内心首を傾げていると、モトが教えてくれた。  ビーフシチューは牛肉や玉ねぎなどを煮込んだシチューで、ビシソワーズは冷たいじゃがいものスープらしい。  想像しただけでお腹が空いてくる。 「早く夜になんないかな〜」  施設が近づいてくるとユキちゃんはいつも通りに戻りつつあった。学校にいるユキちゃんは僕の知ってるユキちゃんと随分違う。  学校にいる時は顔や身体がキュッと強ばっていて、昔の家にいる時の僕と似ていた。  そんな彼女を見ると、僕も少し苦しくて、何にもできない自分が嫌になる。    太陽の家に着くと玄関は混み合っていた。  それはそうだろう。みんな一斉に帰ってきたのだから。洗面所も混んでいて、なかなか生活部屋に帰れなかった。 * 「ふー、ご飯美味しかったな」 「プリン濃厚だったね」  今日の晩御飯もとても美味しかった。  初めて食べるものは緊張するけど、美味しくて箸が止まらなかった。 「腹はち切れるー」 「そりゃモトくんスープ三杯飲むからさ」 「だって美味いんだもん」  床でひっくり返るモト。皆でクスクス笑いあった。 「そういや、さ。来週でもう学校おしまいだね」 「確かに。クリスマス、終業式だもんね」  クリスマスが終業式と言うのは前と同じだ。クリスマス、という言葉にアキの目が光った。 「今年何頼む?」 「俺は、ゲームソフト」  モトは跳ねるように起き上がった。「楽しみで待ちきれない」と続ける。 「私はいつも通り図書カードかな」 「お姉ちゃんつまんないの。あたしはね、着せ替え人形! 祐輔くんは?」 「祐輔って誕生日クリスマスだよな。まとめていいの貰えば?」  クリスマス。それ自体は知っているけれど僕にとって関係の無いイベントだった。  クリスマスも誕生日も正月も、関係ない。  それに誕生日は毎年最悪だった。 『なんで生きてるの』 『あんたなんて、生まれてこなくてよかったのに』  ママはそう言ってお酒を呷るようにして飲んで涙を流す。  でも、今はそんなことがない。  文具も服も買ってもらえて殴られない。  怖くなるほど、沢山貰えてるからこれ以上何を要求するのだろう。
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