4.福

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「はい、小田くん。お疲れ様でした」  先生はそう微笑むとあゆみを差し出してきた。  恐る恐る開くと、そこまで悪くはない。  道徳の『自ら進んで発言できる』と体育の『いろいろな運動ができる』が一番下の『頑張ろう』で他はほぼ『できる』だった。驚くことに図工は三つの項目全て『よくできる』だ。  係の仕事か協力の有無は『できる』か『頑張ろう』の二択だが全部『できる』だ。  前の学校では全部『頑張ろう』だったのに。  『所見』の欄にはこんなことが書いてあった。 『大変真面目に授業に取り組んでおり、宿題もきちんとやっています。途中から転校しハンディキャップがある中とても頑張っています。特に手先が器用で学芸会の小物では素晴らしいものが出来ていました』 「保護者のコメントと印鑑をもらってきてね」 『わかりました』 「小田くん、学校生活は慣れた?」 『はい、モトがいるんで。でも、まだ怖いです』 「うんうん、ちょっとずつ慣れていこうね。  ──そうだ、三学期にいつも『子供会』があるの。文化祭みたいなもので、各クラスごとに出し物をするの。小物作りまたやって貰えたらクラスのみんなも先生も嬉しいな」 『はい』  ワクワクしながらノートから顔を上げた。  子供会は初めてだ。前の学校にはなかったな。  子供会が楽しみと言うよりこんな僕でも頼られてるんだ、と嬉しくなった。  それから係の話をした。学期ごとに係は変わるらしいのだが、中途半端な時期に引っ越してきた僕はまだ係をしていなかった。なので三学期からは係をやってみよう、とのことだった。  五分もしないうちに面談は終わり教室へ戻っていった。 「祐輔、どうだった?」  モトは前の人と話していたが中断して話しかけてきた。 『まあまあかな、あ、でも図工は全部『よくできる』だった』  ノートに書いた文字を読むなり「すげえ」とモトは声を上げた。 『でも体育は悪かった』 「そっか。でもしゃーないよ。児相にいるときはあんま運動出来ないし久々だから身体鈍ってるのもあるだろうし」  後半モトは小声で言った。別に児相で保護されていたことを隠しているわけではないけれど、さりげない気遣いが嬉しかった。──前までは除け者にされていたのに。 「冬休みさ園庭で遊ばね? 鬼ごっことかするうちに体力つくし、人数多いから楽しいと思う。園庭は広いからさ、サッカーもドッジもできるよ。まぁ、無理しなくていいんだけど」 『あそびたい!』  鬼ごっこもドッジボールも、サッカーもやった事がない。前の学校では休み時間、息を潜めて図書室の隅で過ごしていた。
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