51人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
今日の夕食は鍋だ。紅白歌合戦が始まる前に食べようと、いつもより早くご飯を食べることになった。八人くらいで一つの鍋を囲む。
鍋は初めてで、モトたちの様子伺いながら器に装った。
中にはぐつぐつと煮える沢山の食べ物が入っていた。
豚肉、ツミレに白菜、にんじん、きのこに豆腐……
モトに倣って、最後にすりごまを振りかけた。
「いっただきまーす……あちっ」
モトは舌を出した。
「冷まして食べなよ」
ユキちゃんは息を吹きかけて食べていたので真似をした。
トロトロの白菜が口の中で溶けていく。──美味しい。思わず目を細めた。
鍋は初めてで、グツグツと煮えていて少し怖かったけれど美味しさが上回った。
みんなで箸やお玉を伸ばして同じものを食べる。
身体中がポカポカしてきた。
一通り食べ終わった後は溶き卵と白米を投入して雑炊を作った。
モトの言う通り〆のご飯はとても美味しかった。
食べ終えた後は、プレイルームへ向かった。
一時帰宅している人がいるとはいえ、三十人弱が集まっているので少し暑い。
ちなみに、中高生は向日葵棟にテレビがあるらしく帰っていったのだ。
「祐輔紅白初めて見る?」
『うん』
大抵年末年始はママの彼氏が泊まりに来る。
その二人がテレビを独占するので隅に追いやられる。
それでもマシな方だ。いつだったか、年越しは物置に閉じ込められていたこともある。
“雄二にはアンタがいること知らないし、邪魔だからココに入ってろ、一歩も外に出るな、声もあげるな。もしやったら……分かってるよな”
そう言って無理やり押し込められた。物置はごちゃごちゃしていて息苦しく、咳を堪えるのに必死だったが、少しだけ出てしまった。
雄二という人が居なくなってから、激しく殴られた。
“お前のせいで、雄二と別れることになったじゃないか”
と言いながら、蹴って、殴って、ボコボコにされた。
「もう大丈夫」
モトは何も言わなくても求めている言葉をくれる。
紅白を見ている途中にアキや碧斗は眠ってしまいそうになっていたので早めに年越し蕎麦をみんなで食べたのだった。
紅白の後半の前にはアキはもう部屋に戻っていた。
“ゴーン ゴーン”
紅白が終わった頃、耳を澄ますと何かがなっていた。
思わず身を縮める。
「大丈夫、この音はな除夜の鐘だ。人間の煩悩を除くことを願って百八回鳴らすんだ。小学校の近くに明寿寺って言うお寺があるからそこで鳴らしてるんだと思う」
モトは物知りですごい。僕とは全然違う。
それにしても除夜の鐘を聴くのは初めてだ。
「さ、寝なさい。明日は午後から餅つきやるからね」
と、夜よくいるスタッフさんがそう言った。
みんな目を擦りながら各々の部屋に戻っていく。
「いつも正月園庭で餅つきをするんだ。地元の商店街の人たちがついてくれて俺たちがきなことかまぶして食べるの。めっちゃ美味しいぜ」
階段を降りながらモトが教えてくれた。
その後、僕たちはベットに入るなりすぐ眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!