6.新学期

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 三学期の始業式は昼前には終わるらしい。全校で始業式をし、そのあとクラスに戻って学活、と言った流れだ。  始業式では、転校生はいないようだが、少年野球と女子サッカーが冬休み中にいい結果を取ったらしく表彰状を受け取っていた。  凄いなぁ、とそっと息を吐く。  活躍するだけでも凄いのに全校生徒の前で堂々と立てるなんて。僕には絶対無理だ。遠い存在にしか見えない。  先生の話こそ長かったものの、校歌を歌って学年別に教室に戻れておしまい。の予定だった。  けれど、あと、ちょっと──でも、無理だった。    みんながイキイキと校歌を歌う中、僕は必死に耐えていた。  声が、前からも後ろからも、左右からも歌声が攻めてくる。重なる声には低い男性教師の声もあって、昔のママの彼氏の声を思い出し、苦しくなった。息が詰まる。息の仕方がわからない。目の前がチカチカしてきた。  苦しくて思わず座り込んでしまっていたら、先生が助けてくれて、保健室に行った。この流れは少し慣れてしまった。ふとした拍子に、学校でも太陽の家でもしんどくなって保健室や医務室に行くから。  保健室は静かであっという間に落ち着いた。  先生と始業式の様子をぼーっと見ているうちに式はあっさりと終わりを告げ、学年ごとに教室へと戻っていく。  シーンとした静けさのおかげが、さっきの苦しさは落ち着き、心配して迎えに来てくれたモトと共に教室に戻ることにした。   「祐輔大丈夫か?」  小さく頷くと、ホッとしたようにモトは息をついた。 「背の順だと祐輔が遠いから……」  基本全校朝礼などで集まるときは背の順だ。僕は一番背が低いので、本当は一番前だけど、それはなんだか怖いので無理を言って前から二番目にしてもらっている。モトは二学期まで背の順で後ろから二番目だったが、この冬で永田くんを抜かしたらしく今日から一番後ろなのだ。 「あ、小田くんに篠田くん!」  阿部先生がホッとしたように歩み寄ってきた。 「篠田くんの姿が見えなくて驚いちゃった。小田くん、もう大丈夫?」 「ごめんなさい。祐輔、大丈夫みたいです」  頷くと「良かったわ」と先生は言った。 「さ、教室へ戻りましょう。この後はね、提出物出したり、プリント配ったり、三学期の係決めるよ」 「はーい」  
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