6.新学期

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 教室に戻ってあゆみや宿題を提出した。  宿題は漢字ドリルと算数ドリル、それから一行日記だった。  一行日記はその日の天気ややった事を簡潔に記すもので前の学校にもあった。前の学校では『ママに殴られた』とか『ママの彼氏に蹴られた』、『今日も外でぼんやりしていた』などと書くわけにもいかない、とは分かっていたので理想の出来事を記していた。『ママと買い物に行った』『ママのかれしとキャッチボールをした』『友達とおにごっこをした』……全て偽りで、書いていると本当にそれを体験したような気さえした。だが、ふと我に返ると、虚しくてたまらなかった。  だが、今回は違う。『たん生日をいわってもらった』『大そうじをしました』『もちつきをして、おもちがおいしかった』などとありのままに書く事ができた。  それが、今この日常にあるのが未だ不思議だ。  ひと段落つくと、教室がだいぶザワザワとしてきたので先生が前を向くよう指示する。モトと話していた手を止めた。 「はい、じゃあ係決めをしましょう! 先生が係を黒板に書くから、順番に“お名前磁石“を貼ってね。多かったら、まだその係をやっていない人を優先して、それでも多かったらジャンケンね。出来れば二学期と違う係をやりましょう」  お名前磁石、とは緑色の薄い磁石に名前が書かれているものだ。いちいち名前を書く手間が省けるし、時間が短縮できて便利だ。  先生は黒板いっぱいに係の名前と人数を記した。  学級委員、掲示係、プリント配布係、生き物係、体育係、黒板係、新聞係と言ったもので、あまり前の学校と変わらない。なんとなく仕事の内容は想像出来た。 「祐輔なににするの? 俺二学期体育係だったから、それ以外にしないと」  どうやら同じ係を連続でやるのはダメらしい。 『うーん、新聞かな……』  ノートに記すと「いいじゃん」とモトは笑った。 「イラストコーナーみたいなのがあるから、向いてるんじゃない?」 『そうなんだ』  実を言うと、新聞係を選んだのは消去法だ。  学級委員は目立つし、体育は出来ない。プリントを配布するのは音がなってしまいそうで怖い。掲示するにも画鋲が怖くて堪らないし、あんなママで育った僕は生き物を育てる自信がない。──前にどこかで聞いた。『虐待の連鎖』という言葉を。 「俺も新聞にしよっかな」  モトが呟くと先生が「はい、一号車の人から選んでね」と声を張り上げた。  一号車とは一番廊下側の二列で僕たちのところだ。  僕たちの後別の人たちも選んで行った。パッと見た感じ、生き物係と体育係が人気で掲示係と新聞係はそうではない感じである。
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