6.新学期

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「三学期の行事どうしようか? 長縄とか出来る?」  長縄。ヒュン、ヒュンと幻想の音が聞こえる。  元クラスメイトたちは、僕が飛ぶ時だけ縄を早く回した。僕の頬にベシッと当たると嬉しそうに手を叩いて笑い、立ちすくんでいると、背中を強く押し、激しく動く縄に僕を叩きつける。縄はママに叩かれる時より痛かった。  嫌な記憶だ。息が苦しくなる。痛くないのに、なんだかヒリヒリして頬に手を当てた。 「小田くん? 大丈夫」  はっ、はっと荒く息をしていると、モトが飛んできた。 「祐輔、落ち着いて、ゆっくり呼吸ね」 「保健室の先生呼ぶ?」  涙を零しながら首を横に振った。大事(おおごと)にはしたくない。  しばらくしてようやく落ち着き、息をゆっくり吐いた。 『ごめんなさい』 「ううん、小田くんは悪くないわよ。先生が無理に思い出させてごめんね」 「いやいや、祐輔も先生も悪くねーだろ! 悪いのは前の学校のヤツらだ!」  珍しくモトが語気を荒めて言った。 「あ、ごめん」  即座に謝るモト。モトが謝る必要なないのに、思わず身を竦めた僕を気遣ったのだ。 『ううん、あやまらないで』    モトは僕のための怒ってくれたのだ。  僕も悪いのだろうけど、きっと、前の学校の奴らも悪いんだ。 「ありがとう……それで、どうする? やめとくか?」 『ごめんなさい。出れません』 「うん、分かった。見るのも辛かったら保健室とかぬくもりルームで休んでてね」  先生はそう微笑んで「引き止めてごめんね、気をつけて帰って」と続けた。  ランドセルを持って二人並んで廊下を歩く。 「アキたち帰ったかもな」  うん、とうなずいた。  ──モト、待たせてごめん。  歩きながらだと筆談ができずコミュニュケーションが取れるツールがなくなる。それが最近の困りごとだ。
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