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食堂に着くと一足先に来ていたユキちゃんが机を拭いていた。僕らの姿を見ると、手を止め「手洗ってきなさい」と柔らかい声で言った。
僕はモトについていって洗面所へ向かった。洗面所は男女分かれていて、脱衣所も兼ねているようだ。
横には磨りガラス越しに風呂場が見える。
蛇口が三つあったので僕とモトは並んで手を洗った。
「祐輔、カレー好き?」
カレー。給食でしか食べたことがない。給食は僕の命を繋ぐ唯一のものだ。
だから、好きとか嫌いとか考えたこともない。
そんな事、考える余裕も無い。コソコソと一人で、でもできるだけ多く食べる。
「カレーめっちゃ美味いんだぜ! 行こっ!」
モトは手をパッパッとはらうと振り返って笑った。
水飛沫が散って鏡に着いた。
食堂に着くと、サラダとバナナが並んでいた。
モトはスンスンと鼻を動かしながら言う。
「あーいい匂い。祐輔、カレーよそいに行こうぜ。班全員がよそったら食っていいんだ。好きなだけ食べなよ」
配膳台の上には班ごとに分かれた食缶と炊飯器が置かれていて、モトは太字のマジックで“一班”と書かれたそれらの蓋を開けた。
どんどんよそっていくモトに倣って僕も自分の分のをよそった。
モトに言われた自席に着く。僕の前はユキちゃんで隣の席はモトだ。
「全員揃ったね。いただきます」
ユキちゃんが号令をかけるとアキとモトは挨拶もそこそこにカレーにがっつき出した。
「美味しい!」
「美味い!」
立ち上る湯気に透けてちゃぶ台が脳裏に浮かんだ。
***
「あー、もう疲れた。何? アンタいたの?亅
夜空腹で眠れず僕は部屋の隅で蹲っていた。
ビクビクとしているとママが帰ってきた。
ママは夜仕事に行く日もあれば一日中どこかへ行っている日もある。今日は後者だった。
ママは舌打ちをするとビニール袋をどさっとちゃぶ台に置いた。
「あんたなんて産まなきゃ良かった」
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