6.新学期

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 まだママと暮らしていたころ、あの大地震が起こった。  3.11……僕は年中だった。幸いにも震源地とは遠い所だったが、僕以外のクラスメイトの親はすぐに迎えに来て帰って行った。  けれど僕にはママは来なかった。避難した園庭の隅で、木の枝で落書きをしているうちに、涙がじわじわと溢れてきた。  ──あの頃はまだ期待していたから。  結局、十八時になっても案の定ママは来なかった。普段はあまり保育園に行かないのに、運悪くその日だけは保育園に行っていたのだ。  特例だろうが僕は先生に家まで送ってもらった。  エプロンを脱いだ先生はいつもと違っていて、不安でしかたなかった。 『あの××保育園の山田です、祐輔くんのお迎えにいらっしゃらなかったので……』  先生がインターホン越しに声をかけるが応答がない。  俯いて石を蹴っていると、しばらくしてママの声がした。 『すみませんね、仕事で忙しくて帰れなくて。今帰ってきたところで迎えに行こうとしてたんです』  ママは苛立った声でそう言った。 『そうですか……』 『文句でも?』  ママはフンっと鼻で笑った。冷たくて心を凍らせる笑い方だ。 『いえ、それでは……』  先生がいなくなってから家に入ると、ママは苛立ったように僕を押し入れに押し込んだ。 『っつたく。お前なんていらねーよ。失敗作め』    ママはそう言い捨て去っていった。  そんなママの息は相変わらずお酒の匂いがしたんだ…… *
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