6.新学期

8/9
前へ
/86ページ
次へ
「──祐輔?」  顔を上げると広い園庭。ツンツンと遠慮がちにモトが肩を突っついていた。 「これから炊き出しだって」 『たきだし?』   寒く手がかじかんでいるからか、ノートの字は歪んでしまった。  それにしても炊き出しとはなんだろうか。クエスチョンマークが浮かんでいるのを察したのか、モトは付け加えた。 「うん、災害発生時のご飯の練習だって」  モトがそう言ったと同時にマイクと使わずゆりちゃんが話し出した。 「各班ブルーシートを持って行って敷いてください。小学生は部屋ごとの班ね。中学生以上は生活班になってください」  中学生以上は、二人部屋か一人部屋だ。だが、食事、掃除、そして災害発生時は四、五人の班になる。  ブルーシートはどこかな、と見渡したら、サッカーコートの横に積み上げられていた。  園庭の入り口付近では職員さんがせっせとなにかを準備していた。  一部ではカセットコンロが用意されている。 「祐輔くんたち、取りに行こう」  そうだねー、と一班全員でレジャーシートを取りに行って、空いているスペースに敷いた。  いつもと違う不安と緊張、それからワクワク感が混じって不思議な気分だ。  アキたちが走り回ろうとしていたけれど、上級生に「不謹慎だ」と注意されていた。 「フキンシンってなーに?」 「んんと……その場に適してないよって。ほら、今は避難訓練でしょ、騒ぐのはおかしくない?」  ユキちゃんが砕いてそう説明すると、真剣な顔でアキはうなずいて歩く速度を緩めた。  ここに来てまだ数ヶ月だが、アキは大人っぽくなった気がする。  僕は……僕は変われない。変わってない。変化が怖いんだ……  
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加