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「──じゃあ、準備ができたので小学生の三班まで取りに来てください」
ゆりちゃんがそう言ったので僕らは立ち上がってスタッフさんのところへ行った。
ホクホクと湯気が立つお米にスープがガスコンロの上に置かれていて、一部のお米は無造作にビニール袋に入っている。なんで袋に入っているのだろう。
モトは手慣れた手つきで受け取っていた。
「はい。まだ食べたないでね」
よく受付でみるちょっと怖そうな女性から、ビニール袋に入ったお米と紙コップに入った卵スープを戸惑いながら受け取った。薄いコップから温かいものが直に伝わってくる。
後ろのアキは太陽の家での訓練は二回目らしく、少しぎこちない。
一年生のアキは去年までぐんぐんハウスにいたからだろう。太陽の家は一年生以上が対象なのだ。
「祐輔、レジャーシート戻るぞ」
お米とスープを慎重に運んでレジャーシートに腰かけた。
どんどん班が呼ばれていき、あっという間に全員に行き渡った。
ゆりちゃんが再び話し出す。いつもとは違ってやはり真剣な声だった。
「はい、それではご飯についてお話しします。このお米は備蓄米と言います。災害時、炊飯器が使えない時に変わって火で炊くものです。今日はスープ同様ガスコンロで炊きました。
みんなは袋越しにおにぎりにしてください。味は塩のみですが、災害時は食べれるものが不足することもあります。ですので、こう言ったものにも慣れてください。
他にも乾パンや、カロリーソウルがありますが、それらは次回の訓練で食べてみましょう」
カロリーソウルとは栄養たっぷりのクッキーのようなものらしい。
アキ曰く、とても口が乾くそうだ。僕は今まで食べたことがないから味の想像が全くつかない。
「それでは食べれることに感謝して。いただきます」
「いただきます」
みんなの声はやっぱり低かった。が、周りがスープを飲んだ瞬間「美味しい」と声が上がる。
僕もスープをすする。ふんわりとした優しい味が身体中に染み渡る。晴れとはいえやはり寒い中、温かいものは絶品だ。
そして横目でユキちゃんの動作を確認しながら、袋越しにおにぎりを作った。
綺麗に握れず、袋の中でボロボロと落ちるし、海苔もなく塩しかないが、いつもと違う高揚感とありがたみからかとても美味しく感じた。それに、今までのママとの暮らしと考えればとても豪華だ。
「おいしいね!」
「うん、美味い」
無我夢中で目の前のを食べる。
今まで災害はママに関する嫌な思い出が多かった。避難訓練も苦痛でしかなかった。けれど今回の炊き出し訓練のおかげか、ほんのちょっぴりだけ強くなれた気がする。
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