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“産まなきゃよかった”それはママの口癖だ。
「……ごめん、なさい」
「黙れよ」
ママは舌打ちをして僕を蹴り飛ばした。スネはもうあざだらけだ。痛くても声は出しちゃいけない。もっと、殴られる。
うずくまる僕を見て少し気が晴れたのかママはビニール袋から缶ビールと弁当を取り出した。
今日も……僕のはあるわけないよね。
期待するだけ無駄なのに、いつもほんの一瞬胸が騒ぐ。
「──なんでやねん!」
眩しいテレビからお笑い芸人の声が狭い部屋に響く。テレビの中の笑い声が鋭く胸を刺す。みんな、僕とは違って幸せそうで、妬ましかった。
「ギャハハハハ」
ママは下品な笑い声を上げて机をバンバンと叩いた。
身体がびくりと震える。叩く対象が僕に変わったらどうしよう……
「は? ったくなんなんだよ!!」
上機嫌だったはずなのにママはスマホに向かってキレていた。
ふざけんなクソが、と暴言吐いている。
ママはスマホを僕に向かって投げつけた。
着いていた派手なキーホルダーが僕の頬を掠めた。
頬を触って指を見ると赤くなっている。
ママはビールを一気飲みして空っぽの缶をグシャリと潰して再び僕に投げる。運良くカランと手前で落ちた。
ママは再び袋から酒を出してプルタブを開け流し込んでいる。
そして、缶をバンっと机に置いて煙草を取り出した。臭くて、嫌な匂いが部屋に満ちる。思わず涙目でむせた。
「ゴホッゴホッ……」
「汚ぇな。黙れよ」
ごめんなさい、ごめんなさい。静かにするから、許してください。
しばらくして、ママは静かになった。そっと様子を伺うと寝ているようだ。
僕は息を殺して、お腹に手を当ててそろりそろりとちゃぶ台へ向かう。
今日のご飯はトマトと唐揚げ、ポテトサラダに白米。震える手で恐る恐る白米に手を伸ばし、一口パクッと食べ、そろりそろりとキッチンへ向かった。
固形物はこれだけ。これ以上食べたら、バレる。唐揚げは音が鳴るので食べれない。
僕はこっそり水筒に詰めていた水道水を静かに飲み、醤油と砂糖をこっそりと舐めた。
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