表情

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 俺は高校の時から一人暮らしだ。いつも一緒にいる友達なんていなかったし、人を家に呼ぶこともなかったため、今自分の家の風呂場からシャワーの音が聞こえるのがどこか新鮮な気持ちだ。そういえば、おばさんもここの風呂使ったことないんだっけ……。  おばさんというのは、俺の父の妹にあたる、年の割に幼く元気な人だ。幼い頃に両親を亡くした俺がぐれることなくここまで生きてこれたのも、ひとえにこの人のおかげだと思っている。中学まで本当の親のように慕い、頼りにしてきたのだが、俺のことでおばさんは多分、本当はやりたかったことを出来なかったはずだ。結婚だって――。だから俺は早く独立したくて、高校からは遠くで一人暮らししたいと言った。今思うと、それもただの俺の我が儘でしかなかったが、おばさんは嫌味を言うこともなくただ応援してくれた。 「……あ、タオルと服、用意しとかなきゃ」  いつ何があるか分からないんだから、急に誰か来ることになっても困らないように準備だけはしときなさいっていつもおばさんに言われてたから、一応歯ブラシとかもあるし……。  チェストからバスタオルと新品の下着、トレーナー、ジャージパンツを用意して脱衣所に向かった。  ……あ、陽花くんに一応声掛けとくか。 「陽花くーん、ここに置いとくね……って、あれ」  扉全ッ然開かない……。  力ずくでいったら簡単に開くのだろうが、扉の向こうで開かないよう必死に押さえているであろう陽花くんの影が見えるのでやめておこう。 「ふっ……、可愛い」  つい心の声が漏れてしまったが、扉は閉まっているし本人には聞こえていないだろう。 「じゃあ、俺戻るよ。ゆっくりしたらいいからねー」 「は、は~い……!」  扉越しで陽花くんの反響した声が聞こえる。……動揺しているように感じたけど、気のせいかな? とりあえず、陽花くんがお風呂から上がってくるまで少しの間仮眠しよう――。
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