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下を向き、真っ赤でパンクしそうになっている陽花くんの顔を、俺は中腰で覗き込んだ。自分から覗き込んでおいてなんだが、あまりに顔と顔が近くて俺も陽花くんの今の顔色が移ってしまいそうだ。
「あ゛ぁ! もう、そうです! 恥ずかしいんすよ! 今までそれで散々、女くさいだの乙女っぽいだの馬鹿にされてきて……」
たたみかけるような早口で荒っぽい陽花くんの声を初めて聞いた。
どうやら俺は調子に乗り過ぎたらしい、かなりご立腹のようだ……。
「……だから別に、慣れてるんで、馬鹿にされるの」
少し間を置き発した陽花くんの声に寂しさが響く。
……ん? あれ、待て俺そんなつもり一切ない――。
「ちょ、ちょっと待って、俺馬鹿にしたつもりさらさらないんだけど」
誤解を解きたい……、しかしそれをどう伝えたら良いのか分からない。
陽花くんは本当に可愛くて、表情豊かで純粋で、触れると簡単に壊れてしまいそうなのに、俺も知らない俺を教えてくれて……、それで――……。
「あ……、あの、日雅さん……」
「だから……」
駄目だ、全然うまくまとまらない……。
「あ、えっと……痛い……んですけど……」
「え……」
俺は陽花くんの両手首を掴んでいた。気付かない間にかなりの力で握っていたらしい。
「……あ、っはは、ごめんね」
俺は笑って何事も無かったかのようにぱっと手を離し、目を逸らした。
「ほんとにごめん、何やってんだろ俺……」
今陽花くんがどんな表情をしているのか、痛いほど簡単に想像できてしまう。また怖がらせてしまった、確実に。
俺に怯えた陽花くんの顔なんて見たくない。考えただけで、心が締め付けられ苦しくなる。
陽花くんの腕を優しくとると、自分が思い切り掴んだせいで跡が浮き出てきそうな細い手首をそっと親指で撫でる。
何が悲しいのか、何に腹が立っているのか分からない。でも、今までみたいにどうでもいいかとほっておくことができない。全部知りたい、理解したい――なのに陽花くんのことになると分からないことだらけで不安になる。泣きたくなる。
「日雅さん、あの……大丈夫っすよ、俺」
そう言うと、陽花くんはヒヒヒと子供らしく笑った。そんな顔もまた可愛らしい――……この状況で何能天気なこと考えてんだ俺は……、自分自身を呪い殺したい。
陽花くんは、俺が色々考え出したことに気付いて気を遣ってくれているのだろう。
「とにかく! 早く風呂入んないと日雅さんだけ風邪引きますよ? ……ほら、髪乾いてきてる」
そう言うと、俺の髪に触れてきた。その時ふわっと香ったのは陽花くんのあの柔軟剤の香りではなく、慣れ親しんだ俺の家のシャンプーの匂いだった。そのことに俺はなんだかどうしようもなく嬉しい気持ちになった。
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