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温かいシャワーに打たれながら、先程のことを思い出す。
確かに陽花くんのコロコロと表情を変えていく様子は面白くて好きだ。しかし、あんな苦痛に顔を歪める姿まで見たかったわけではない。
『あ、えっと……痛い……んですけど……』
弱々しく、陽花くんの口から発された言葉が頭からこびりついて離れない。小さくなり、ひどく怯えた目をしていた。
俺のせいで――。
「はぁ……」
こんなに大きな溜息をつこうが大きな声で叫ぼうが、やってしまった事実が消えることはない。そう、分かっているのだが……、やるせない気持ちでいっぱいになる。
空気を読んで、自分が目立ち過ぎないよう周りに合わせることは簡単だ。今までずっとそうだった。それなのに……、陽花くん相手だとどうも上手くいかない。
「……いつまでもこうしてるわけにいかないな、はぁ……」
キュッ――……。
シャワーの蛇口を閉め、負の感情を強引に切り替える。
ごちゃごちゃと考え事をしていたせいで、いつもよりも風呂から上がるのに時間がかかってしまった。
「お待たせ陽花くん、ごめんね遅くなっ……て……」
最低限の家具しか置かれていないリビングに戻ると、ベッド付近のフローリングに陽花くんが寝転がっていた。
すやすやと眠っているが、このまま床で寝かせていたら体中が痛くなってしまいそうだ……。
おそらく快く思われないだろうが、ベッドに運ぶため陽花くんを横抱きにする。すると、掴んだ肩は薄く俺の思った以上に華奢な体つきをしていた。
「うわ゛ッ……!!」
「ぅお……、びっくりした……」
瞬間、陽花くんは俺の腕の中で電撃を喰らったかのようにビクンと跳ね上がりながら、寝起きとは思えない程の大きな声を出した。俺が立ち上がった時の浮遊感で起きてしまったらしい。
「ごめん、起こしちゃったね」
横抱きされる陽花くんの見開かれた目と視線が絡む。やはり、自分の意思で目を逸らすことができない。
「どうする? もうちょっと寝とく?」
それに抗うように、俺は目を細めて微笑む。
「大丈夫です……、あの……下ろして……」
「あ、そう?」
さっきあんなに気持ちよさそうに眠っていたから、もう少し眠るものかと思った……。
陽花くんをベッドに腰かけさせ、俺はそのすぐ傍の床に座る。
決して大きめの服をわざと選んだわけではないのだが、陽花くんを見るとやはり上下どちらもダボダボでなんだか可愛らしい。
「さっきも思ってたんだけど、陽花くん細くない? ちゃんと食べてる?」
「え? はい、食べてますけど……」
首を傾げ不思議そうに見つめてくる。もし、だから何? と聞かれたら特に明確な理由もないし、俺は返答に困るだろうな……。
「……あれ? 日雅さん、ゲーム好きなんですか?」
今度は陽花くんから口を開いた。なんだかキラキラと瞳を輝かせている。
ただ、急に話が変わったので少し戸惑ってしまった。
「うん……? どうして?」
「あ、いや……あそこにあるのが見えて……」
陽花くんは叱られて尻尾を下げた子犬のように、しゅんと落ち込んでしまっている。
数年前、新しく発売されたゲーム機を興味本位で買ってみたはいいが、自分があまりにも下手くそで、それきり手をつけていない。プレイするのはどうやら向いていなかったようだ。でも、もし陽花くんと一緒にできるのなら……。
「……やる?」
俺がそう言うと、今度はパァ――と明るい顔をして大きく頷いた。陽花くんはゲームが好きらしい。
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