表情

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 軽い吐き気と動悸により眠りから覚め、暗黒の中目を開く。  確認するのが面倒で時間がはっきりとは分からないが、眠りに落ちてからまださほど経っていないはずだ。  酷く嫌な夢を見ていた気がする。……こんなに曖昧な言い方をしているのは、目が覚めた瞬間、その詳細な内容を綺麗さっぱり忘れてしまっていたからである。  恐怖――その感情だけが頭の中を渦巻いており、体が怠重く謎の焦燥感に駆られていた。幾らうつらうつらしているとはいえ、こんな状態で眠りについたらまた悪い夢を見てしまうかもしれない。 「ん゛~……」  俺のすぐ傍から、苛立ちを含んだようなくぐもった声が聞こえた。……そうだ、今隣には陽花くんがいるんだった。  先程の寝言の声色からすると、陽花くん、もしかしたら寝苦しいのかもしれない。  今すぐに確認したいのだが、部屋の電気を完全に消してしまったため真っ暗で、このベッドから電気スイッチまでは地味に遠い。それに、今俺は仰向けで横たわっている状態なので、上体を起こし更に立ち上がるのは正直かなり面倒だ。なので、アラームをかけるためベッド付近に置いてある自分のスマホを右手のみで探り、画面の淡い光で陽花くんの様子を見ることにする。  面倒だと言いながらもここまでするのは、陽花くんの可愛い寝顔が見たいとかいう下心があるからではない、決して。あくまでも確認のためだ、うん。  ごちゃごちゃと考えながら陽花くんの寝転がっている方向へスマホ画面を向け、電源ボタンを1度押し、スリープ状態を解除した。  仄かな光の中で、静かに眠る陽花くんの姿が見えた。寝ぼけて俺のことを抱き枕か何かと勘違いしているのか、左腕・左脚を俺の胴体に乗せ、ピッタリと張り付いてきている。さっきは俺に背を向け、壁ギリギリまで詰めていたくせに。  そういえば目が覚めた時になんだか体が怠重いと思ったけど、それは陽花くんが俺に纏わり付いていたからだったのか。こんな可愛いことされているせいで、僅かに存在していた眠気はどこかへ吹っ飛んでしまった。  起こさないように陽花くんの頭をふわっと撫でた後、元あった場所にそっとスマホを置いた。
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