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ピピピピ、ピピピピ――――
AM6:00、俺の携帯のアラームが鳴り響く。それを止めるために腕を伸ばし探してみたが、いつもあるはずの場所にスマホが無い。おかしいなと思い重い瞼をようやく開いたが、それと同時にアラーム音は止んだ。もしかして陽花くんが止めてくれたのかな……。しかし陽花くんの様子を伺ってみたところ、一度目を覚ました形跡は一切無く、ましてやこれから起きるような気配も全く無い。
携帯の行方は分からないし、陽花くんに纏わり付かれたままで下手に動けないし……。スヌーズを設定しているから、とりあえずそれまでもう一度寝よう。
ピピピピ、ピピピピ――――
あれ……もう? 音止めないとな……そう思っていた矢先、またもアラーム音が自動的に止んだ。勝手に音が止むということは、陽花くんが止めてくれたということなのだろうが、なにせ俺のスマホの所在が分からない。ベッド付近の棚の上に置いていたので、陽花くんの手元にあるなんてことはまず無いと思うのだが……。流石に目が冴えてしまったので、今すぐに起きてしまいたいところなのだが、俺が動くことでこんなにぐっすりな陽花くんを起こしてしまうことになる。それは出来れば避けたい。
もう一度アラームが鳴るのを待ってから声を掛けてみるか。そうしたら、携帯の所在も分かるかもだし、陽花くんも起こしてあげられるし。
ピピピピ、ピピッ――
ねぇちょっと待って、アラーム止めるの早すぎない? 2秒も鳴ってないよ、多分。……ていうか陽花くん、なんで俺のスマホ手元にあるの? 間違えて取っちゃった? あとそろそろ俺から離れてよ、……まあ可愛いからいいけどさぁ……。
「……陽花くん」
起床のきの字もない陽花くんを起こすために名前を読んでみる。しかし、俺に引っ付いたまま、返事どころか何の反応も無い。
「陽花くーーん」
今度はもっと大きな声で呼び掛けてみた……が、やはり先程と結果は同じだ。
このまま寝かせてあげたほうが良いのかもしれないが、そうなると俺がいつまでも動けないことになってしまう。この子はどうやったらスッ――と起きるのだろう……。
「……陽花くん、いい加減起きないとキスしちゃうよ?」
寝起きで思うように発声できず普段より低い声で囁いた直後、気持ちの悪い寒気に襲われた。……俺やばいね、今のは流石に自分でも鳥肌が立った。
「……ぅん……」
陽花くんは目を閉じながらそう言うと、緩慢に動いた後寝返りを打った。
えーっと、今のはどっち? そろそろ起きるよーって返事? それともキスしてもいいってこと? ……後者はありえないか、ただ寝ぼけて言っただけなのかもしれない。
陽花くんが寝返りを打ち俺に背を向けたことで、俺の体は解放された。こうなれば俺は起きても静かにしておけばいいだけだし、陽花くんには好きなだけ寝かせてあげ――
「あれ? 無い……」
陽花くんがガバッと上体を起こし、唐突に喋り出した。
人間って本当にびっくりした時はやっぱり声出ないもんだな……、急なことすぎて本気で驚いた。心臓の音がドクドクとうるさい。
でも、陽花くんは何か探しているみたいだし、話を聞いてあげよう。
「おはよう、陽花くん。無いって、何が無いの?」
陽花くんの手元にあるのは俺のスマホだし、もしかしたら自分のスマホを探しているのかもしれない。
「…………」
しかし返事は無い。
1回1回の瞬きが遅く、眠たそうな眼をした陽花くんがこちらをボーっと見つめて来た。その後、はっと何かを思い出したような顔をしたかと思うと、今度はじわじわ頬を赤く染め出し、それから一呼吸置いた。
「なんでもないです」
今度は悟りを開いたようなわざとらしい笑顔を見せた。
さっき顔を赤らめて恥ずかしそうにしていたので、もしかしたら『ただ寝ぼけてました~』ってオチなのかもね。
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