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出来上がった食事を陽花くんの目の前にある机に置く。
「こんなものしか作れないけど、どうぞ」
料理工程はほとんどただ焼くのみなので、味はそこそこ問題ないだろう……と思う、多分。誰かに料理をふるまうことは初めてだったため、反応が気になってしまう。
「わぁすっげ! めっちゃ朝ごはん!」
今の陽花くんの感想は、語彙が大分乏しかった気がしなくもないが、このキラキラとした表情から喜んでくれていることが分かるので、まぁ良しとしよう。
陽花くんは、いただきます――と手を合わせてから、目玉焼きに手を付けた。
「ん! うまっ」
良かった、口に合って……、まぁ俺は火通しただけなんだけど。
「それは良かった。陽花くんさ、いっつも朝食べてないんだよね? お家の人には心配されないの?」
「いや特に……あ、でも兄ちゃんが前になんか……」
へぇ、陽花くん兄弟いたんだ……。
変なところで言葉が途切れたので、続きが気になる。
「お兄さんがたまに何?」
「あ、いや『よぉご飯抜けるよね、俺ならそんな拷問耐えられん』って……」
陽花くんの兄――、家族なんだからもちろんのこと、俺の知らない昔の陽花くんを知っているのだろう。なんだか羨ましい。
「っはは、陽花くんのお兄さん、よっぽど食べることが好きなんだね」
「いや、あれは好きってレベル越えてますよ……」
身内の話だからか、陽花くんは口籠ることなくハキハキとよく喋る。
「あっは! そうなの?」
「はい、だって兄ちゃん寝坊して学校遅刻してる時でも、必ず朝ご飯は食べて行くんですよ」
呆れたような顔をしてはいるが、自分の兄の話になってから少し表情が明るくなった気がする。
「陽花くんのお兄さん、学生さんなんだ」
「え? はい、大学生す。俺の2つ上なんですよねー。俺、もうすぐ兄ちゃんと同じ大学に行くんです。あ、もちろん科は違うけど……」
兄のことになると、陽花くんの口からスラスラと言葉が出てくる。相当その兄のことが好きなんだろう、いいなぁ……。
「そっかー、なら俺は陽花くんのお兄さんとタメってわけだ」
二重で三白の瞳がこちらを見た。可愛らしくキョトンとした顔をしている。
「タメ……? もしかして日雅さんも大学生なんですか?」
「そうそう、次3年だよ」
もっと歳がいっているように思われていたのだろうか。確かに昔からよく『年の割にしっかりしているね』と言われてはいたが……、なんだか複雑だ。
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