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閉店20分前、店の掃除をしていると1組のお客さんが入ってきた。
「すみません、まだいけます?」
ベビーカーを押しながら母親であろう人が言う。
「大丈夫ですよ」
レジカウンターから、笑顔も無しに陽花くんが答えた。
俺は出入口からは遠い所を掃除しているので、レジ番は近くにいる陽花くんに任せることにした。レジ付近の様子を確認しようと隙間から覗き見る。……あれ、なんか今の俺、変態くさくない? まぁいいか。
すると、先程までいなかった5歳くらいの女の子にべったりくっつかれていた。くっつかれるといっても、陽花くんにべったりという意味ではない。女の子はサッカー台に乗り上げる形で、陽花くんに話しかけている。さっきベビーカーを押していた人の娘か……、こんな雨の日に、こんなに小さな子供2人の面倒を見ながら買い物なんてよくできるなと、嫌味ではなく感心した。
「何してるのー??」
女の子は陽花くんのしていることに興味津々のようだ。陽花くんはどう答えるのだろう……、まさか小さい子供にまで人見知りしたりはしないだろうし。
「あ……」
今にも消え入りそうな声だった。もしかしたら急に話し掛けられてパニックになっているのかもしれない。丁度俺とは反対側から、目当ての商品が見つかった様子で、ゆっくりとベビーカーを押しながら陽花くんのいるレジカウンターに向かう女性の姿が見えた。今の状態の陽花くんに会計を任せるのは、可哀そうでほっておけなかったため、あの女の子のこともあるし、手伝いに行こうと大股で向かったその時――。
「レジ! ……して、ます……」
陽花くんがそういうと、女の子はキョトンとした目で陽花くんのことを見つめた。
「ふーん」
自分から何をしているのか聞いておいて、あまりに見当違いの答えが返って来て戸惑ったのか、興味無しといった態度だ。
今の出来事で、またグルグルと考え事をし出した様子の陽花くんの隣に並ぶ。陽花くんの人見知りは、俺が思っている以上にひどいものらしい。
先程の女性がレジカウンターの前に来た。
「ありがとうございます、商品お預かりしますね!」
俺がそう言うと、視界の端で陽花くんがビクッと揺れた。ちょっと前から隣にいたというのに、今やっと俺の存在に気付いたようだ。
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