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無事会計が終わり、いつも通りお客さんの背中を見送る。すると、女の子が振り返りこちらを見て来た。視線の先は陽花くんだ。
「バイバーイ」
女の子は陽花くんを見て手を振る。
「へ……はい!」
どうやら手を振り返そうとしているらしいが、手が上がってない上、指先まで伸び切らず曲がったままで、なんで俺に……? と考えているのがオーラだけで感じ取れそうだ。……あぁ、本当に面白い。
「ふふ……」
自動ドアが閉まった途端、我慢していた分の笑いが込み上げてくる。
「な、なんですか?」
自分のことで笑われていると確信したようで、今さっきの面影を一切感じさせない、ムスッとした顔で聞いてくる。
「いや、陽花くんの人見知りって、子供にまで発動するんだね」
まだ笑いが収まらない。ほんとこの子、見ていて飽きないな。
「違いますよ、ただちょっと苦手なだけで……」
さっきのような子供に対する態度は、人見知りから来るものでは無く、苦手から来るものだと、そう言いたいのか。陽花くんが拗ねているように感じたので、笑うのを止める。
「苦手? 陽花くん、子供苦手なんだ、どうして?」
「小さい子供ってなんか、純粋、素直て感じじゃないですか。だから、どう接したらいいのか……、知り合いの子とか、友達の兄弟とかなら全然大丈夫な気がするんですけど」
今日初めて会って、交わした会話もまだまだ少ないということは重々分かってはいるが、陽花くんがこんなにもハキハキ喋っているのを初めて聞いた。普段はこんな感じなのだろうか。
純粋で素直……、確かにそうかもしれない。大人になっていくにつれて、悪い点や汚い点ばかり見てしまいがちだ。悪に染まるのは簡単だが、良くなるのは並の努力では難しいだろう。……あれ? でもだとすると、大人の方が苦手ということになるし……。
「へぇ~?」
色々考えながら返事をしたせいで、興味の薄いような反応になってしまった。案の定陽花くんは眉毛を下げて複雑そうな顔をしている。
「……やっぱり冷たいって思います?」
フォローする言葉を探している最中、先に陽花くんが口を開いた。
「え?いや、全然。俺も小さい子、ちょっと苦手だから。陽花くんの言いたいこと分かるよ」
俺と同じ三白の目が見開かれる。どうやら驚いているようだ。
「日雅さんも……? 意外だって言われません?」
「あーうん、まぁ……」
別に小さい子供が嫌いなわけではない。ただ、彼らを見ることで、あの時何もできなかった幼い自分のことが否が応でも脳裏をよぎるのだ。
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