人面瘡の落としもの

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 まどかの膝に顔の出来物が現れたのは春の終わりだった。最初は偶然、顔みたいに腫れたのだろうと思っていたが夏が終わる頃からハッキリと表情が読み取れるようになって十月になった最近は口もきくようになった。まどかの学校の制服は紺色のブレザーにチェックのスカートだ。スカート丈は膝よりちょっと長い。だからどうにか出来物は隠れているが、夏の体育の授業のときは困った。体育のときだけ白い包帯でどうにかごまかしていた。体育の教師には階段で転んだのだと嘘をついた。  まどかは病院に行くこともしないで出来物を放置していた。調べたら人面瘡というものらしい。人面瘡はまどかの身体の一部になった。声からして男のようだった。  ある日、休み時間に太宰治を読んでいたら国語の教師に言われた。 「畠山(はたけやま)は小説が好きなのか?」  この国語の教師の名前は立山(たてやま)、大抵の教師は授業が終わるとすぐ出て行くが、立山は授業が終わってもいつもダラダラと教室に残っている。 「好きですよ。でもただの本しか読みません。図書室にある本か家の書庫にある本を読んでます」  まどかはそう答えて膝に出来た出来物を隠すようにスカートを正した。そして斜陽を読み進めた。斜陽はもう三回読んでいる。これは家にあったものだ。まどかのお父さんは読書家で家の二階に書庫がある。
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