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「抱きしめてもいいか?」
青島に聞かれた未来は、また、泣きそうになりながら答えた。
「社長に言われたら断れないって、昨日も言ったはずです。」
未来が言い終わらないうちに、青島の腕は未来を抱きしめていた。
「笑った顔に癒される。怒る姿は感情をぶつけてくれていると思って嬉しくなるし、泣いていると守ってやりたいと思う。お前のことで一喜一憂する自分に戸惑いもあったが、認めてしまえば楽しいもんだ。だからどんなお前と一緒にいても俺は幸せを感じる。」
それは熱烈な告白だった。
次から次へと溢れ出した言葉の列挙に、溺れてしまいそうになって、はぁっと息を吸うようなため息が出て、未来の体から力が抜けた。
青島の腕の中で、強張っていたその体は抵抗を失い、全てが青島に委ねられた。
その重さと温もりが、たまらなく愛おしく思えて、手放すことなど考えたくもなかった。
「しかし随分、日当たりのいい部屋だな。理性を保つには、完璧な小春日和だ。」
わざとらしいくらい、はつらつとした声で、青島は言った。
すっかり体を預けていた未来は、夢から覚める思いで我に返り、赤面した。
「もう顔を合わせたくありません。」
あまりの恥ずかしさから、そう訴える未来の体を離すと、青島はどさっとあぐらをかいて座った。
そして掴んだままの未来の腕を引っ張ると、自分の前に座らせた。
「相変わらず酷いことを言う。」
青島は俯いたままで、顔を上げようとしない未来に向かって言った。
「俺の方が恥ずかしいとは思わないのか?こんなに情熱的な告白をして、自分が一番驚いているのに。」
「えっ?」
未来はやっと、青島の顔を見た。
「信じる気になったか?」
未来は、少しだけ首を傾げてから答えた。
「正直、気持ちが追いついていません。」
そうだな、と青島は笑った。
「全く気がつかなかったのか?」
青島の問いに、はい、と未来は返した。
「嫉妬して理不尽な態度を取って、怒らせたこともあった。イベントの時は、お前を見かけて気付いたら腕を掴んでいた。」
「確かに、社長らしくないなって思うことは、最近よくありました。」
「まさしくそれだ。俺らしくない。」
「はあ。」
「考えるより先に言葉や態度に出てしまう。俺自身、もうこんな気持ちになることはないと思っていた。」
「本当におつきあいしている女性はいないんですか?」
「いない。」
「素敵な女性がたくさんいるって、言いましたよね?」
「言った。お互い割り切ってデートを楽しむだけの関係だ。恋愛感情はない。それでいいと本気で思っていた。」
「でも、もう、お前さえいてくれたら、それでいい。」
未来は、青島のことを拒絶できないことだけは、分かっていた。
流されているだけなか、もう捕らえられてしまったのか、それとも求めているのか。
「ただ、俺はお前に無理をさせたくない。俺の前で、今以上にもっといろいろな表情をして欲しい。」
「だから、同伴を頼んだ。立場や責任は俺ひとりのものじゃない。それをわかってもらいたい。」
青島の真剣な気持ちと覚悟が伝わってきて、信頼してきたこの人の思いを、信じようと思った。
「わかりました。でも、私が嬉しい気持ちでいることは、知っておいて下さい。」
そう言って、未来は微笑んだ。
青島は、そんな未来を、もう一度抱きしめた。
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