告白

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告白

どうして自分の家なのに遠慮しないといけないんだろう、と思いながらドアの前に立っていた。 興奮してなかなか寝付けなかったが、頭は冴え渡っていた。 未来は、よしっと呟いてドアを開け、そっと青島が寝ているはずの和室を覗いた。 しかしそこにあったのは、畳んで重ねられた炬燵布団と毛布だけで、青島の姿はなかった。 帰ったのかとも思ったが、洗面室から水が流れる音が聞こえてきて、未来はホッとした。 しばらくすると、青島が洗面室から出てきた。 「おはようございます。早いですね。」 「おはよう。顔を洗わせてもらった。」 「それは構いませんが、眠れましたか?」 「女性に告白して、夜中から怒られたのがショックでな。きっとクッションが涙で濡れてるはずだ。」 「またいい加減なことを。」 未来は上目遣いで青島を睨むと、身支度を整えようと洗面室に入った。 15分程で出てくると、青島はセーターとジーンズに着替えていた。 「朝ごはん、食べますか?」 「化粧したのか?」 「えっ、はい、一応。」 「してもしなくても、あまり変わらないんだな。」 「もう若くないんだから、きちんとしろって言ってます?」 「褒めてるつもりだ。」 「はあ。私、化粧が上手く出来ないんです。」 「確かに不器用そうだ。」 青島は、炬燵を眺めながら言った。 「私のことはどうでもいいです。朝ごはんはどうしますか?もう帰りますか?」 「いや、帰らない。」 「はっ?」 「今日のお前の予定はどうなってる?」 「特にありません。」 「それなら一日かけて、口説くとしよう。」 「それで朝食は何だ?」 未来は相手をするのも馬鹿らしくなり、ため息をついた。 「トーストに卵は何がいいですか?」 「目玉焼き。」 「私はチーズトーストに塩胡椒した目玉焼きを載せますが、同じでいいですか?」 「それでいい。おいしそうだ。」 未来はコーヒーをセットして、冷蔵庫を開けた。 『好きだ』と言われて、一瞬でも喜んでしまった自分自身に、心底怒りを覚えた。 そして未来の心の揺らぎを感じて、そんな言葉で惑わそうとした青島にも腹が立った。 『社長のやる事なすことに、動揺している私がおもしろいですか?部下ではなくなったからって、からかうのは酷いです。』 思い出すと今でも腹立たしいが、それでも憎めないのは人徳なのか。 未来は出来上がった朝食を並べながら、青島の顔をしげしげと眺めた。 「おいしそうだ。ありがとう。」 青島は手にしていたタブレットを置くと、未来が座るのを待って、食べ始めた。 簡単な朝食を終えると同時に、ピンポンと玄関の呼び鈴が鳴った。 「随分と早いな。」 「たぶん、王くんです。顔を出さないで下さいね。」 未来はそう言って立ち上がり、事務所とは反対方向に歩いて行った。 「おはよう。」 「オハヨウゴザイマス。コーヒーノカオリガシタノデ、オキテルトオモイマシタ。」 「今、食べ終わったところ。どうしたの?」 「コンド、ガクエンサイガアリマス。ボクタチ、ヤタイシマス。キテクダサイ。」 「へー、楽しそうね。友達に聞いてみる。」 「ヨカッタ。マタチケットモッテキマス。」 「うん。今日も学校なの?」 「ハイ。イッテキマス。」 まるで子供を見送るような心境で、いってらっしゃい、と未来は手を振った。
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