第一章:運命はふるいにかけられる

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第一章:運命はふるいにかけられる

「やっと捕まえたぞ! このならず者が」  とある王都の中心街の路地裏で、一人の男が自警団たちに追い詰められていた。  目の前の壁の高さは二メートル強。よじ登るにしても時間がかかる。三人がかりで飛びつかれたら終わりだ。  男は両手を上げ降参の意を表した。 「降参だ。潔くつかまってやるよ」  どうせこの先良いことなんかないし。  男は腕をロープでぐるぐる巻きに拘束、更に手錠を嵌められ、城の牢獄に入れられるよう国王たち王族の住むデコレート城へ連れていかれた。  玉座にて。  ならず者の男は囚われた状態で国王の前に投げ出された。 「国王! ついに千件を食い逃げした極悪な常習犯『ビター』を捕まえました!」 「うむ。よくやった」  床に転がされた男・ビターは吐き捨てるように言う。 「煮るなり焼くなり好きにしろ。首だって吊ってやらぁ」 「その言葉、本当ならばお前に最も苦しい刑罰を与えよう」  国王はしげしげとビターを見て、兵士たちに「例の部屋へ連れていけ」と指示を出す。  ビターは腕を拘束されたまま兵士たちに左右の脇を固められ石段を上らされる。  何故上の階へ行く? 牢屋は地下じゃないのか?  連れてこられたのは豪奢な造りのドアの前だった。とても罪を犯した者が入れるような部屋ではない。 「入れ」 「入るのかよ……」  兵士たちはビターの拘束を外して一歩下がると、ビターにドアを開けさせる。  扉を開けると、そこは可愛らしい部屋だった。  天蓋付きのふかふかのベッド、アンティーク調の高そうなイス、ドレッサーに大きなクローゼット。  まるでお姫様が暮らすような部屋だ。 「今日からお前はデコレート城の姫君『メルト』様のお目付け役になってもらう」 「は? 姫の子守をしろってのか!? 氏も知らんゴロツキの俺に」  兵士たちはこしょこしょとビターに耳打ち。 「我々では姫様のワガママに付き合いきれん。命がいくらあっても足りん。貴様ぐらいタフな輩には丁度良い刺激になるだろう」 「ふざけやがって……ッ!!」  ぐるるるッと尖る犬歯を丸出しに怒るビターの頭に柔らかい衝撃が走る。 「ふざけているのはアンタよ」  声のした方を見ると、十歳くらいの幼い少女が投球スタイルでこっちを見ていた。  手に持っているのはクッション。彼に投げてきたのは枕だったらしい。床に白かった枕が汚れて転がっている。 「この『メルト』様の部屋に男が上がり込むだけでも不快なのに、なんなのその汚い恰好は!」  この少女が例のワガママお姫様のメルトらしい。  金色と桃色が溶け合った艶やかな髪は上にちょこんと左右に一つづつお団子縛り、瞳は紅玉のように煌めき、物言う口は小ぶりな造りで可愛らしく、肌はきめ細やかで陶器のように白く美しい。  確かに、外見は文句なくお姫様だが言動に難がある。 「私がキレイにしてあげるわ。なんたって、これから私の召使になる男だもん」 「おいコラ誰がお前なんぞに仕えるか」 「貴様ぁ! 姫様になんという暴言を吐くか!!」  兵士が顔を真っ青にしてビターに怒鳴りつける。  しかしメルトは気にしなかったらしい。ご機嫌でクローゼットをあさり出す。 「召使用の洋服を用意させてたの。アンタそこそこイケメンだし似合う服多いよ! よかったね」  さっそく自分が姫の着せ替え人形にされる未来が待ち受けていることに、ビターはこれからの苦労は今までの非じゃないと悟り、眩暈がした。
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