第一章:運命はふるいにかけられる

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「ふーん、なかなかサマになってるじゃない」 「疲れた……」  浴室で汚れを落とし、次に待ち構えていたのは案の定メルト姫の着せ替え大会だった。  一日に半年ぶんくらいの量の服を着替えさせられ、最終的に無難な燕尾服に決定した。  初めて着る清潔な服に感動を覚える。 「試着した服はメイドに洗わせるからまとめておいて」 「洗わせるって、今着たこれを全てか?」  部屋に散らばるこの大量の服を、一日着たわけでもなく試着しただけなのに全て手洗いさせるなんて。  ビターは顔も知らぬメイドさんに頭を下げた。 「退屈だわ。何か面白い話をしてちょうだいよ」 「お前な……」  メルトは悪びれもなく次の話題に切り替える。  ビターはそれを許せずメルトを叱責した。 「少しはメイドに悪いと思えよ。それか感謝か。部屋だって毎日綺麗にしてもらってんだろうに」  ぐちゃぐちゃな部屋。  毎日手入れされていて綺麗なはずのベッドもテーブルもお菓子の食べかけのくずが散らばっていて、ゴキブリさんようこそ状態だ。  説教たれるビターにワガママ姫は反論。 「私はね、国で一番美味しいお菓子を持ってこいって命令したのに、どれも美味しくないんだもん。こんなに無駄に 食べさせているんだから掃除ぐらい当たり前でしょ」  カチーン。頭にきた。 「少しは家来たちの気持ちを考えろ。それが分からないかぎり、お前は国で一番の菓子になんて辿り着けないね」 「……なんですって? どういう意味よ!」 「だってそうだろ? こんなに我が儘で横暴な姫様に誰が一番のスイーツを献上する? 日頃の恨みで不味~いヤツばっか用意されてたりして!」  なっはは! 言ってやったぞと家来の仇をとったように海老ぞりになって高笑いするビターは燕尾服のせいもあってお姫様をイビる悪魔にしか見えない。  ただし正論を言っているビターだが、メルトの逆鱗に触れたらしい。メルトは部屋で一番大きい箱菓子をビターの頭部にぶつけ吠えるように叫ぶ。 「出てって! あんたはクビよッ!! 死刑にでもなってしまえ!」  ダンッ!!  ドアが閉められビターは廊下へ投げ出されてしまった。  早速お役ご免になってしまった執事服の元ゴロツキは腕を組み考える。  ここで終わったら死刑まっしぐらだ。 「さて、どうしたものか……」
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