「癒しのヒロイン」あなたは、何者?

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1、雨  電車は、駅に着いた。 今日は、残業で3Hr程遅くなった。改札を出ると、外は雨が降っている。 踏んだり蹴ったりとはこの事か。 「残業でなければ、大丈夫だったのに、あ~あ」と、つい、愚痴が出た。 朝の天気予報では、もっと遅くに降り出すと言っていたので、傘は持参していない。  結構、降っている。でも、夕立ではないので待っていてもやむ事はないだろう。  恨めしそうに、空を見上げた。  ここは、神奈川県でも田舎なのでバスの最終も早い。 タクシー待ちには、列ができている。  自宅まで、歩いて20分だ。何と中途半端な距離なのだろう。  30分以上なら、タクシーに迷わず並ぶだろう。15分なら、歩きだ。  駅前の通りの向かいに、コンビニがある。そこで、ビニール傘でも買おう。  そう思って、走り出そうとした時、後ろから、傘を差しかけられた。  振り返ると、女性が立っていた。 「この傘、どうぞ」と、開いた傘を差しだしている。 「え、何で俺に」 「傘、持ってないんでしょ。困った時は、助け合いです」 「え、でも、あなたが無くなるでしょ」 「私は、折りたたみ傘も持ってるから」と、言いながらバックを持ち上げた。 「向かいのコンビニで、買おうと思ってたんですよ」と、言うと 「家に、ビニール傘、いっぱいあるでしょ」と、言われたので 「ええ、ついつい、買ってしまうので、5本位あるかな」と、言うと 「そうなのよね、男の人は、バッグに入れて持ち歩く事しないからね」と、 うなづいている。 「うん、まあ、そうだね」 「じゃ、これ、使ってください。それじゃ」と言って、俺に傘を持たせた。  その後、自分は折りたたみ傘を取出し、それを差しながら歩いて行ってしまった。  その人とは、帰る方向が逆だった。  世の中には、親切な人もいるものだ。おかげで、助かった。  そう言えば、名前も聞かなかったし、返却はどうしたらいいんだろう。  偶然、会うのを待つしかないか、それとも、駅員さんに聞いてみるか。 まあ、借りた傘は、ビニール傘であり高価なものではないので、あの人も、返してもらう事を期待して、貸した訳では無いのかも知れないと勝手に判断した。  薄暗い街灯の下を何本も通り過ぎ、やっと自宅に着いた。  ズボンは、膝下半分位までふき掛けた雨で濡れていたが、傘のお陰で大分助かった。  傘は雨水を払い、玄関横に立て掛けておいた。
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