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3、帰宅
今日は、残業もなく早く帰れそうだ。
残業が当たり前的になるのは、賛成できない。
与えられた時間の中で、やり遂げる工夫もなくとまでは言わないが漫然と残業するのは、いかがなものか。
一方、給与面では時間給×1.5倍にはなるので、生活の為に進んで残る人もいる。
まあ、帰れる時は帰る。サラリーマン人生は長いのだから。
帰りの電車は、朝ほど混雑していない。
学生さんの時間帯が違うのか、まだ、働いている人が多いのか、それとも、歓楽街に足が向いている人が多いのかと言ったところだ。
最近は、以前より飲み会への参加も少なくなった。
何となく、面倒くさいのが先に立つ。同僚と飲む事や、帰りのルートもだ。
車窓から、暗くなった外を焦点の定まらない視線で追っていると、降車駅の案内コールが流れた。はっと我に返り、電車を降りた。
登りエスカレーターに乗り、改札口に向かった。
その時、「こんばんは」と、後ろの方で声がした。
その後もう一度「こんばんは」と、近くで声がした。
振り返って見ると、すぐ後に女性が立っていた。
「あ、昨日の傘の・・・・・・方 ですよね」
「はい、また会っちゃいましたね」
「はい、あ、昨日は助かりました。有難うございました」
「今日は、早いですね」
「ええ、残業が無かったので早く帰れました」
「そうなんだ、良かったですね。良かったのかな」と、彼女
「早く帰れる時は、帰る主義なんで」
「そうだ、そんな事より、傘を返さなくちゃ」と、俺は続けた。
「ビニ傘だから、いいですよ」と、彼女
「そう言う訳にはいかないですよ」
すると彼女は真顔になって、
「じゃ、今から取りに行きますか。自宅まで」
「え、これから、本当に、だって結構かかるよ」と、答えると
「冗談ですよ。ちょっと、ドキドキしました」と、笑っている。
「突然で、びっくりしたよ」と、私は正直に答えた。
そして、
「今日は、時間ありますか? 御飯まだですよね」と、続けた。
すると、少し口元を緩め
「それって、軟派ですか」と、いたずらそうな目つきで答えた。
「違うよ、あの時本当に助かったので、何かお礼しようと思っただけさ」
と、答えると
「空いてますよ。いいんですか、じゃ、お言葉に甘えて」と承諾してくれた。
そして、二人並んで改札口のゲートに向かった。
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