「癒しのヒロイン」あなたは、何者?

5/14
前へ
/14ページ
次へ
5、 食事処 続編  「へい、お待ち」と、前の焼き鳥担当が彼女に皿を差し出した。 だいたい、飲み屋の店員は、女好きなのだ。 それには、二種類の焼き鳥が乗っていた。  一つは彼女の要望のレバー、もう一つは 四日炙りの皮だ。  彼女は嬉しそうに受取り、二人の間に 置いた。 「こっちは、レバーよね。これは、何?」と、聞いてきた。 「こっちはね、この店のスペシャルの鳥皮だよ」と、言うと 「そうなんだ、鳥皮ってもっと白くない」と、言ったので 「この店のスペシャルで、四日炙りの皮て言って、普通のお店で食べる皮と違うよ。食べてごらん」と、言った。    彼女は、疑心な目をしながら、その串を取り、口に運んだ。 「これ、おいしい、皮じゃないみたい」 と言った。 「そうね、ベーコンみたい。何本でもいけそう」と、続けた。  焼いている店員も、嬉しそうに目じりが 下がっている。  そんな訳で、店選びは合格だった様だ。  その後も、月見つくね、鴨のワサビのせ、鳥唐のにんにく醤油、俺のチョイスした オーダーを、彼女は全て食したのだった。 飲みっぷり+食べっぷりも、気持ちが 良かった。  ここで、俺は彼女の名前を思い切って 聞いてみる事にした。  なぜ、誘った時に直ぐ聞かなかったのだろう。 いや、傘を借りた時に確認しておくべきだったのだ。 いや、この店に来る間でも、お互いに紹介し会う事は出来たはずだ。 なのに、お互いが名前も名乗らずにここに 居る。  彼女も、何か特別な理由があるのかもしれない。 個人情報に関しては、厳しい時代に移っているので、軽率な言葉もかけられない世の中だ。    けれど、名前だけは聞いておきたい衝動は抑えられない。 何か、ここで聞いておかないと、もう会えないかも知れない。 こんな気持ちは久しぶりだ。 これって・・・・・・。  彼女は、焼き担当の店員と談笑している。 それが、少し鼻に着くのは何故だろう。  入店から1時間半位経っただろうか? 私達は、会計を済ませ、店を出た。 「ごちそうさまでした。本当においしかったです」と、彼女 「いや、気に入ってもらって良かったです」と、言うと 「あの、四日炙りの皮は衝撃だったな。初めての体験、10本はいける」と、嬉しそうだった。 「あそこの店だけど、イベント日は主要な品は半額だよ」と、言うと 「え、そうなんですか!。じゃ、その日をターゲットにすれば超お得じゃないですか」 「そうだけど、その当日は1時間前に行列ができるよ」 「そうなんだ。う~ん、1時間我慢できるか、それが問題だ」と、首を縦に振っている。  路地から出たところで、 「あの、今更で申し訳ないけど、名前言ってなかったよね」と、俺 「いいえ、それは私も同じです」と、彼女 「俺の名前は、朝比奈 健太っていいます。よろしく」と、言うと 「私は、アン」です。と、名乗った。 「アンさんですか」と、言うと 「はい、アン‐ブレイラー」です。 「アン‐ブレイラーさん?」と、聞き返すと 「冗談ですよ。アンは本当だけど」と、笑っている。 「了解です。今度、お会いする時はアンさんと呼びます」と、俺 「それで良し。それじゃ」と、左手を上げ、くるりと背を向けて反対方向に歩いて行った。  俺も、帰宅方向を向いて歩き出した。  今日は、まだバス便はあるが何となく歩いて帰る気になった。  何故か、いつもの道が短く感じた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加