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5、 食事処 続編
「へい、お待ち」と、前の焼き鳥担当が彼女に皿を差し出した。
だいたい、飲み屋の店員は、女好きなのだ。
それには、二種類の焼き鳥が乗っていた。
一つは彼女の要望のレバー、もう一つは
四日炙りの皮だ。
彼女は嬉しそうに受取り、二人の間に
置いた。
「こっちは、レバーよね。これは、何?」と、聞いてきた。
「こっちはね、この店のスペシャルの鳥皮だよ」と、言うと
「そうなんだ、鳥皮ってもっと白くない」と、言ったので
「この店のスペシャルで、四日炙りの皮て言って、普通のお店で食べる皮と違うよ。食べてごらん」と、言った。
彼女は、疑心な目をしながら、その串を取り、口に運んだ。
「これ、おいしい、皮じゃないみたい」
と言った。
「そうね、ベーコンみたい。何本でもいけそう」と、続けた。
焼いている店員も、嬉しそうに目じりが
下がっている。
そんな訳で、店選びは合格だった様だ。
その後も、月見つくね、鴨のワサビのせ、鳥唐のにんにく醤油、俺のチョイスした
オーダーを、彼女は全て食したのだった。
飲みっぷり+食べっぷりも、気持ちが
良かった。
ここで、俺は彼女の名前を思い切って
聞いてみる事にした。
なぜ、誘った時に直ぐ聞かなかったのだろう。
いや、傘を借りた時に確認しておくべきだったのだ。
いや、この店に来る間でも、お互いに紹介し会う事は出来たはずだ。
なのに、お互いが名前も名乗らずにここに
居る。
彼女も、何か特別な理由があるのかもしれない。
個人情報に関しては、厳しい時代に移っているので、軽率な言葉もかけられない世の中だ。
けれど、名前だけは聞いておきたい衝動は抑えられない。
何か、ここで聞いておかないと、もう会えないかも知れない。
こんな気持ちは久しぶりだ。
これって・・・・・・。
彼女は、焼き担当の店員と談笑している。
それが、少し鼻に着くのは何故だろう。
入店から1時間半位経っただろうか? 私達は、会計を済ませ、店を出た。
「ごちそうさまでした。本当においしかったです」と、彼女
「いや、気に入ってもらって良かったです」と、言うと
「あの、四日炙りの皮は衝撃だったな。初めての体験、10本はいける」と、嬉しそうだった。
「あそこの店だけど、イベント日は主要な品は半額だよ」と、言うと
「え、そうなんですか!。じゃ、その日をターゲットにすれば超お得じゃないですか」
「そうだけど、その当日は1時間前に行列ができるよ」
「そうなんだ。う~ん、1時間我慢できるか、それが問題だ」と、首を縦に振っている。
路地から出たところで、
「あの、今更で申し訳ないけど、名前言ってなかったよね」と、俺
「いいえ、それは私も同じです」と、彼女
「俺の名前は、朝比奈 健太っていいます。よろしく」と、言うと
「私は、アン」です。と、名乗った。
「アンさんですか」と、言うと
「はい、アン‐ブレイラー」です。
「アン‐ブレイラーさん?」と、聞き返すと
「冗談ですよ。アンは本当だけど」と、笑っている。
「了解です。今度、お会いする時はアンさんと呼びます」と、俺
「それで良し。それじゃ」と、左手を上げ、くるりと背を向けて反対方向に歩いて行った。
俺も、帰宅方向を向いて歩き出した。
今日は、まだバス便はあるが何となく歩いて帰る気になった。
何故か、いつもの道が短く感じた。
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