第一話 短編小説はそっと寄り添う

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「ここにあるのは、全て短編小説です。  元々は短編小説専門の本屋だったこの店を、店主がカフェバーに改装しました。その時に選りすぐったものだけ、ここに置いています。  短いもので五分、長くかかっても三十分程度で読み終えられるような、そんな短い作品を揃えてあります」  酒棚、いや、その本棚に並んだ文庫本の中からリタ君が一番近くにあった一冊を取り出して、私に本底を指し見せる。  確かに、厚さは普通の文庫本よりもかなり薄かった。 「それでお店の名前が『短編堂』なんだ。  でもどうして、短編小説ばかりを?」  質問が、カウンターの上に浮かぶ。私と彼を挟んで、幾ばくかの間その答えを待っていた。  そして、深呼吸の後、彼は手の中の文庫本を私の前にそっと置きながら、小さく零す。 「短編小説は、人に寄り添います」  青い瞳の視線が、私の眉間を貫いていた。  まるで心の中まで見透かされるようで、私は思わず視線を落とす。するとそこには、リタ君の置いた一冊があった。 『「あと5分待って」』 池田春哉  読んだことのない小説。  作者の名前も初めて聞く小説家だった。  私はその一冊を手に取り、表紙を捲る。アームライトが照らす光が、私の手元を照らしていた。 「短編小説って、そうして手に取りやすいものだと思いませんか? 少し時間が出来た時、暇に思う時、そして、心にあまり余裕が無い時」  私はハッとして、表紙を静かに閉じてリタ君を再び見上げる。  彼の青い瞳は変わらず私を見つめていた。
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