第一話 短編小説はそっと寄り添う

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「長編小説も、勿論楽しい読み物です。壮大な世界観で、人物の相関性を知り、散りばめられた伏線を拾いながら読み進める。ワクワクします。読者は気合を入れて、ストーリーの行く末を追っていきます」  リタ君が半分だけ振り返り、後方の本棚を指差して続けた。 「短編小説を読むのには、そんな気合は要らない。かしこまらずに、コーヒーや紅茶のおかわりの合間、次のカクテル一杯が来るまでの間にでも、手に取る事ができる。  未来を考え過ぎて、恋人とのこれからを不安に思う合間にでも、寄り添う事ができるんです」 「……寄り添う、短編小説……」 「はい。短編小説は寄り添います。あなたに。  恋人との『長編小説』を思い描いているお姉さんにも。そっと、優しく、ね」 「でも……」  慌てて反論しようとしたけれど、私の口からは何も出なかった。  ひとりで不安になって、大騒ぎして、空回りして、焦ってる。そんな自分を見透かされていた。 「お姉さん。この本、お貸しします。また紅茶を飲みに来てください。  その時にお返しいただければ結構ですから」  ◇
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