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置かれていた文庫本の横にレモンスライスの小皿を置きながら、リタ君がそんな無邪気な断言をする。
酸っぱい表情をわざと作って、私は笑って言った。
「なにそれ。おかしい」
「「あと5分待って」の二人とは、時間の流れ方は違うでしょう。でも、同じくらいお互いを想い合っている事は分かりましたから」
二杯目をおまかせで注文した後、私はもう一度「あと5分待って」を読み返した。
物語の中の二人は、その優しさに満ち溢れた5分を大切にして、楽しんでいた。
私は、洋ちゃんのそんな時間を、大切にできていただろうか。これから楽しく過ごせないだろうか。
アームライトの光に照らされたコースターの上に、二杯目が乗せられる。
大胆にロールカットされたレモンの皮がグラスに入った、ちょっと笑ける迫力を持ったカクテルだった。
まるで琴子さんのようなカクテルだなと思って。リタ君がイタズラっ子みたいにそう笑うから、また私は吹き出してしまった。
このお店の時間の流れが、分かってきた。
とても心地良い。
朗らかで、こんなに楽しい時間なら、次は洋ちゃんと一緒に来たいと思った。
「短編小説もね、沢山集めて『短編集』になったり、短編のお話が続き連なった『連作短編』として長い物語になったりするものです」
二杯目を飲み終えた時、リタ君がそんな事を話してくれた。
ああ。洋ちゃん、ごめんなさい。
私はひとりで焦って、最近あなたのことを分かろうとしていなかったんだ。今はどうしようもなく、洋ちゃんに寄り添いたい。あなたと私の物語に、触れていたい。
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