第二話 名前なんて

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  「最っ高に面白かったよ! リタ君!」  アームライトが照らす辺りに一冊の恋愛短編小説を置きながら、私はそんな冷めない興奮を店員のリタ君にぶつけた。  店に入ると同時に注文したレモンティーを淹れる準備をしている彼が、目の前のカウンターの中で微笑んでいる。 「よかったです。昨日の琴子さんなら、ああいう甘い物語が一番いいと思って」  灯りを受けて光る文庫本の表紙を二人で見つめる。  このお店、Cafe & Bar『短編堂』に通うようになって、こうして毎回リタ君と短編小説の話をするようになった。  外が暗くなる前のこの時間、レモンティーを飲みながら彼が紹介してくれる本を読むのが日課のようになっている。  ツヤ消しのカウンターの一番奥の席で、私は今日もそんな時間を過ごしていた。
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